ブログネタ:友達の彼氏彼女を好きになってしまったら 参加中

ユキからその事を聞いたのは最近の事だ。ユキがそんな事を思い初めていたのは、付き合いはじめてまもない、朝顔の種を埋めてから芽も出てきていない程度の期間だったそうだ。ユキはソーサーに収まったティーカップの柄を人差し指でゆっくりと撫でなだら、涼しい顔で言った。

「電話で話した通り……和也の事が好きなの、……終わりよ」

ユキはそういうと口真っ直ぐに結び窓の向こうに広がる海に目を移した。沖合いの岩礁にはカモメ達が回遊する小魚の群れを待ちかまえているのが見える。午後の優しい太陽の光は浪の合間に落ち、細かく砕かれて無作為に反射した。ユキの表情には安堵感がありその向こうには自信さえ伺えた。悪い事をしたと言った罪悪感など一片も見えない。視線をゆっくりとこちらへ向けると、表情はさらに堅く無表情になっていた。

「どうしてなんだ、和也も承知なのか」

2日前和也と赤坂のバーで飲んだ時にはそんな事が起っているなんて微塵も見せなかった。あの日、残業をしないために早めに出社し、朝からトップギヤで仕事を片付け、和也との約束の前にユキへの贈り物のワインを買いに赤坂駅に近いワイン・ショップに走った。

ワインが入った袋を手に小さなバーの扉を開けると和也が、カウンターでショットグラスを口に運ぶ所だった。横目でこちらをちらりと見るとグラスを置き軽く手を上げた。バーテンダーはその様子を見ると、おしぼりを手に和也のカウンターの横へやってくる。

赤坂の大きなテレビ局の近くのカウンターだけの小さな隠れ家的なバーだった。和也は大学を卒業して赤坂にある大きなテレビ局に勤務し十年になろうとしていた。10年の堅実な勤務により作品のクレジットに登場するような役職を得て順風満帆な人生を送っている。

大学時代、同じテニスクラブに所属し主将の和也にはいつも世話になっていた。大学の頃から面倒見が良く皆に慕われる存在だった。派手な業界にあって色々な噂はあったが、信望も厚く堅実な人生を歩んでいるように見えた。随分前に和也のセッティングで何度か女子アナと飲んだ。最近までその中の一人と付き合っているように思えたが、聞くと、

「彼女は、ただ友達さ……」

と意味を含めて答えた。和也とは3年程前から赤坂近辺のバーやレストランで食事をしたり飲んだりするようになった。もちろん二人とも独身だったのでお金には少し余裕があったし、和也は時々経費と称して領収書を受け取っていたので、同年代の友達が行くよりも比較的値段のはるお店へも出入りする事ができた。時には和也からの接待で、銀座で女の子と話をする落ち着いた店へ行く事もできた。

卒業後入った小さな輸入代理店で直ぐ海外赴任になり、6年の間オーストラリアの田舎街で日本からワイン買い付け客の接待とサポートのような仕事を任された。田舎町は何もする事がなく退屈だっだけど、走るのには長すぎる道路と泳ぐには大きすぎる海と大きな自然がそこにあった。

和也がロケで訪れた時、サーファーズ・パラダイスから南へ30Km程南下した小さな町で会い、サーフィンを楽しんだ事もあった。帰国が決まると、直ぐに和也から携帯へ電話が入った。

「おぃ、いつ帰れるんだ、お前の会社確か赤坂だったよな、早く帰って来いまってるぞ」

言うだけ言うと電話を切ってしまった。成田に降り立つと南ウィングの到着ロビーに和也の姿があった。和也は茶目っ気たっぷりに白い画用紙でバナーを作り、「welcome back」と名前の書いた白い大きなフリップを高々と掲げていた。横には髪の毛の長い良く日に焼けた女性が立っていた。

荷物はほとんど先に送ってしまったから、スポーツ・バッグが一つだけだった。和也はフロント・ボンネットを空けそのスポーツバッグを放り込む、形ばかりの後部座席へ隣に立っていた女性が乗り込む。狭いスペースだったが彼女のスリムな体はすっぽりと収まった。

「ユキって言うんだ」
「はじめまして、あなたね、話は和也から良く効かされたわ」
「うん、よろしく」

和也がイグニッションを回すと後部座席の声はほとんどエンジンの音にかき消された。ユキの顔をみると、掌を上に向け両腕を広げる格好をした。和也の黒いスポーツカーは高速を走り都心へ走った。それから和也を交えてユキに会った。よく3人で赤坂のバーやレストランへ行くようになり何度か会った。そうしている間にユキの魅力を無視できなくなり、そして惹かれていった。

和也もユキも皆が忙しい時期が訪れるとしばらく会う機会がなくなったが、いまから1年前にユキを呼び出して告白した。勿論和也へ了解をとってからだ……その頃、和也の仕事も一段落し和也とも赤坂周辺で飲むようになった。ユキとの交際も上手く言っているように思えたし、和也と一緒に飲むのも楽しかった。

隠れ家的なバーのバーテンダーは熱いおしぼりを手渡し、注文を聞くとボトルを取りに長いカウンターの角へ行った。和也はグラスの液体を口に入れるとグラスを置き袋を覗き込むと、

「おっつ、ワインじゃないか、買ったのか、どれどれ」

と言って袋から取り出してラベルを見た。すると、ほんの僅かだが和也の瞳の中に狼狽が現れるのを感じた。和也はワインについては何も触れずにそのまま袋の中へ戻した。そのワインの意味なんて和也は知らない筈だと思い、その一連の行為には何も感じなかった。ただの、ユキが好きな何処にでもあるテーブル・ワインだ。

レジで支払いを済ませる。レジの後ろには長い砂浜が続いている。オーストラリアから帰ってから間もない頃、和也とユキの三人でサーフボードやボディボードを持って来た懐かしい砂浜だった。支払いを済ませると、駐車場には見覚えのある、黒いスポーツカーが駐車スペースにあった。そしてユキはその横に立って、こちらを見ていた。木製のステップを降りると、ユキは扉を開け運転席に乗り込むとエンジンをかけ、その車独特のエンジン音を残し海岸線を走り去っていった。

海岸に沿って走り去り小さくなっていく黒いスポーツカーを見送っていた。風に吹かれた海岸の砂が、木製のステップの上をサラサラと踊るように飛ばされていった。
■入子状のストーリーに挑戦しました。スタックみたいですね、プッシュ、プッシュ、ポップ、ポップってアセンブラ知ってますか(笑)
■Run 5Km Runの後のケアはSwimです。とにかく体全体が冷えます(膝も足も)……キックは使わずに泳ぎます。
■物語の隠されたディテールってわかる人にはわかるのかなぁ~?それを探すのも楽しいですね。