ブログネタ:もらって嬉しかったメール 参加中年に何度かはそんな日が訪れる。窓越しに見た空は、どんよりとした雲は低く垂れいつ大粒の水滴が落ちてきてもおかしくない。和也は屋外でのイベントを控え天候が気になっていた。季節外れな向日葵の柄のワンピースを身に着けた天気キャスターが、太陽のシールを天気図に貼り付けていたのは昨晩の天気予報だった。
気象庁の予測に裏切られた。和也は今朝の空模様にがっくりと方を落としたした。予報と現実が一致していなかったとしてもイベントは開催される。会場へは向かわなければいけないそれが仕事なのだ。悪い空模様になれば客足が遠のき来場者数が減り、結果としてスポンサーからの皮肉を込めた言葉を聞くだけだ。グッズや弁当の売り上げは落ちるかもしれなかったが、それは和也の会社には影響しない。
イベント会場へは車で20分。和也が朝食を済ます時間は十分にあった。トーストをオーブンへ放り込み、シリアルにミルクを注いでいると携帯が鳴った。表示を見ると同僚のミキからだ。ミキはそのイベント担当なので昨夜から会場に泊り込んで搬入と造作をしている筈だった。和也は携帯のボタンを押す。するとミキの切迫した声がスピーカから響いた。
「和也大変なの、受付のコンパニオンも、ステージのコンパニオンもまだ来ないの。最後のリハーサルもできていないのよ。オープニングで配るノベリティも届いていないし、造作も少し遅れているの……」
と殆ど泣き出しそうな声だ。
「バック・アップで行っている信二はそうしてるんだ?」
「昨夜、風邪でダウンしちゃったのよ、まだ会場に入ってないわ」
「しょうがない奴だな。とりあえずコンパニオンを手配した会社へ電話するんだ。直ぐに家をでるから落ち着いてできる事をするんだいいね、ノベリティは途中で業者に確認しておくよ。また連絡する。じゃ、直ぐに向かう、20分で着くから安心して」
和也は窓の外を眺め、空が明るくなってくれるように祈りながら、急いで白地にグレーのピン・ストライプのワイシャツを着てネクタイを絞め、スーツを着てキィケースの中から車のキィを掴んでマンションを出た。雲は相変わらず重苦しく垂れ込めている。冷たい空気がシャツを通して体を冷やす。コートを着て出ればよかったと後悔した様子だが既に遅かった。
早足で駐車場を横切り、車へ近づきキィの「Unlock」ボタンを押すと銀色のRVからロックが解除される音が静かな駐車場に響いた。それと同時に冷たい水の粒が和也の鼻の頭に当たった。見上げると幾つかの水滴がパラパラと落ちて来ていた。
ブリーフ・ケースとコートを助手席に放り込みキィを回す。いつものように軽快なエンジン音が室内に届く。それと同時に大粒の水滴がフロントガラスを濡らし始める。「やっぱり振出した」そう呟きワイパーのレバーを下げ視界をクリアにする。ギヤのレバー握り、パーキングからドライブ・レンジへ入れる。
フロント・パネルを見ると燃料系がEを示し赤いランプが点灯していた。和也は一昨日の晩に遊びに来たミキを送っていった事を思い出した。もう殆どガソリンが無かった。「急いでいる時に限ってこうなんだ」アクセルを踏み駐車場を出るといつものスタンドへ向かった。信号待でスタンドが見える一位置に止まった。いつもの様子と何かが違う。
電気の消えたスタンドは改装工事中で休みだった。
「急いでいるときに限ってこうなんだ」
和也は心の中で呟く、少し遠回りだったが別のスタンドへ向かい車を停めた。給油の合間を縫ってノベリティの業者へ電話を入れる。運送中のトラックが事故に巻き込まれ足止めを食っているという。場所を聞くとイベント会場の直ぐ近くだ。
イベントの会場に間に合うのか微妙な時間らしい。別の車が現場へ向かい必要な量のノベリティをトラックから移す手配をしているとの事だった。別の車は既に現場へ急行していると言う事だ。現状ではそれ以上どうする事もできない。和也は状況を伝えるためにミキへ電話する。
電話の向こうのミキの声はさっきよりだいぶ落ち着いていた。話を聞くとステージ・コンパニオンが到着してなんとかリハーサルを始めたとの事だった。和也が遅れた理由を確かめると、事故の渋滞に巻き込まれていたのだと言った。ミキの話では事故は丁度イベント会場とマンションの間で起きているとの事。和也がいつもの道を使えば同じように渋滞に巻き込まれてしまう。
給油が終わると和也は裏道を使って会場へ急いだ。幹線道路から外れた住宅地だった。その道なら渋滞に巻き込まれる事は先ず無い。和也がふと窓の外を見ると小さい子供が雨の中、ずぶ濡れになって泣いている。和也の性格ではそれを見過ごす事ができない。急いでいたが車を停めて男の子の話を聞くと、迷子になり帰り道が解らなくなったと言った。
車の中にあったタオルで頭を拭いてやり、近所の交番へ連れていった。マンションからそう遠く無かったので辺りの土地勘はあり、最寄の交番の場所はわかっていた。警察官に引渡して直ぐにイベント会場へ向かう予定だったが、警察管はきちんと職務を果たそうと色々な質問をする。事情を話し免許書を見せて住所を確認させ、名刺を置いて交番を出た。
シートに座るとミキから電話が入った。受付のコンパニオンも到着したとの事……状況はだいぶ良くなり声も落ち着いていた。和也はもう直ぐに着く事を知らせ、連絡は携帯へメールして欲しいと伝えた。これで運転中でも着信を逃さないで済む。信号待ち……気はジリジリと焦る……そしてまた信号待ち。メールの到着を知らせる着信音が鳴る。
運転中なのでメールは読めない。フロントグラスの向こうにはイベント会場の大きな高層ビルが視界に入った。会場まであと少しだった。会場を回るように広い駐車場へ入り、駐車スペースに入れるとサイドブレーキを引き。キィを抜きながら携帯を広げる。それはミキからのメールがあった。コートの袖に腕を通し、携帯メールを開きながらイベント会場へ走る。
空は雲が去り青い空が一面に広がって、陽の光が降り注ぎ街路樹が道路に影を落としている。冷たかった空気も暖められ春の訪れを感じ無い訳にはいかない、天気はそんな風に変わっていた。携帯メールの画面には、
「ノベリティが着いたわ。全てOKよ」
そんな風に書いてあった。イベント・ホールの長い廊下を走っていると、そこには笑顔で嬉しそうなミキが手を振っていた。ミキに駆け寄ると携帯の着信音がして、知らない人からのメールが着いていた。電話の着信記録も残っていたがドライブモードで取れなかった。
和也は手を振るミキに近づきながら携帯メールを読む。メールには、
「子供を保護していただき、本当にありがとうございました」
そんな内容の事が書かれていた。
■この物語はフィクションで登場する人物は架空の人物です。
■この記事を後から読んで思ったのですが「マグノリア」みたいですね。そう思いませんか?