「白い指の夢」

とてもエロティックな夢だった。夢の中には白い指が登場しただけだ。腕でも掌でも無い、勿論顔や体の一部も出てこない。その中には蒸気を背景にピンク色のマニキュアをした白い指がぼんやり浮かび上がり、艶かしく動き回っていた。

その日の朝、通勤電車の中の話だ。白い女性が車両の連結部の扉を背に立っているのが見えた。満員の通勤車両の中はいつものように身動きがとれず、出入り口の扉と座席の間に身を細くして立っていた。

隣に立って音楽を聴いている高校生のヘッドフォンステレオから時折シャカシャカとドラムのハイハットがリズムを刻んでいた。外は十分に寒かったが空調は切られていた。窓は外気で冷やされ、乗客の吐く息で曇り初めていた。

網棚を支える銀色に光るステンレスの柱の先、吊革に掴まって新聞を読んでいる人の肩越しにその女性が見えた。余りに肌白いので、始めは扉に白くペイントされた広告が貼ってあるのかと思った。

でも、目を凝らしてみるとそれは白い肌の女性だった。彼女は身動きもせず、焦点の無い目で曇り始めた窓の向こうを眺めていた。白いといっても色々な白さがある。その白さは透明に近く、まるで透けてその向こうが見えるようだった。

白さが、ファンデーションによるもので無い事はなんとなくわかった。ハリウッドでFSXを駆使して映像を作っても、決して作り出す事のできない柔らかく透き通った白さなのだ。視線は直ぐに釘付けになり、外す事ができない。女性の姿を自然に追いかけてしまう。

身動きが出来ないのはその状況において好都合だった。その状態である事が自然であるなら、彼女の姿を見続ける事が不自然な行為とならない。自分にとっても丁度良い言い訳だ。

背中に押し付けた別の乗客の息遣いがコートを通して背中へ伝わりリズムを刻む。白い女性は顔だけしか見えない。彼女がどんな服を着ているのか、つり革を掴むサラリーマンに邪魔されて見えない。わずかに見えた部分は、白いブラウスの襟と光る石の付いた銀色のネックレスだった。

もし女性から目を離したら、蒸気の様に消えてしまいそうな気がして、白い女性を見続けた。息遣いを感じられず、生という感じが全くない。まるで、朝の光の中かから零れ出た妖精のようだった。

他の乗客が存在に気が付いているのか、近くの乗客の表情を探ってみたが、彼らは一様に吊革を掴のと逆の手に持っている新聞に目を落とし、一心に記事を読みふけって、女性の存在には気付かない様子だ。

電車が駅に近づくきポイントを通過すると電車が揺れる。それにあわせて乗客も一斉に揺れた。もう少し姿を観られないものかと注意したが、以上表れないのだ。電車がホームに滑り込みブレーキがかかる。再び乗客が一斉に揺れ乗客が乱れるが、それでも姿は見えない。

電車が止まり扉が開くと、吐き出されたように一斉に乗客はホームへ流れ出す。同時にホームへ押し出されてしまう。下車駅ではなかった。再び車両に乗り、同じ場所に戻ってあの場所を眺めたが、もうそこに白い顔は無かった。

見回したが見つからない。そうしている間に扉は閉まりホームをすべり出す。こうして通勤は終わりオフィスへ着いた。その夜、指の夢を見た。繊細な白い指が、濃い霧の中で淫靡に動き回っていた。

幾つかの指は蛇のように絡み合い、ゆっくりと動いていた。その指が彼女の指なのかどうか真実は不明だ。あの時彼女の指は見ていないのだから……でも、その絡み合いゆっくりと動く指は絶対あの女性の指だと思う。絶対に……
■考えてみれば明日はレースなのだ。えーと葛飾柴又10Kmロードレース。草団子っでも参加賞にでるのかな?
■昨日は7Kmゆっくり走りました。体が重い少し、1.5Kg太ったのが効いています。