注意:本章には性的な表現が使われています。作品の表現に必要な範疇に留めたいと考えておりますが作者と読者の理解の違う場合がありますのでご理解ください。若年層の方及び性表現に嫌悪感を抱かれる方はご遠慮いただく事をお願いいたします。

近未来の世界、人々は高度な電子化へ対応で不眠症に苦しんでいた。「NDT Inc.」社は、独自開発した特殊装置で不眠解消のために「夢」を売るサービスを提供していた。装置の悪用を計画する非合法プロバイダ「MAL(マル)」。NDT社の社員である「不眠症の主人公」と恋人「ケィ」が装置をMALから守るために繰り広げる「近未来・冒険・ドリーム・ラブロマンス」BugsLifeをお楽しみください。
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18.仕事と謎のコイン ~ #3 ~

便宜的な公園の水飲み場周辺は厚い霜柱に覆われ、土がこんもりと押し上げられていた。そして盛り上がった土を押し潰すように子供達の小さな靴の形がはっきりと残っていた。冬の寒さが一番厳しくなる時だった。

その頃になると失った記憶の為なのか、発生するU-4の解決できない問題がコンピュータ・のチケッティング・システムのリストに山積され始めていた。そのような問題を過去の資料やチケッティング・システムに残されたログを頼りになんとか自力で解決した。記憶は消えていったが経験により積み上げられた知識はかろうじて残っていた。

どうしても記憶を辿って問題解決の糸口を見つけられないときにはアーカイブされたデータを無断でローカル・システムのストーレッジへコピーし、幾つかの検索条件から糸口を見つけ問題を解決した。

今迄と同じ様に仕事を処理しているように見せ、自分の状態を会社に知られないようごまかしていた。もし、そんな状態を会社に知られたら、立場上厄介な事になるのは明白だった。軌道に乗った職を失うのは嫌だったし、それによりケィを失いそうな予感もあった。

障害の回復や外部からの攻撃を阻止する仕事において、過去のパラダイムを記憶の中から掘り起こし即時に対応出来ないと言う事は、即時性と緊急性を求められるオペレーション・ワークにとって致命的だ。

幸運にも記憶を失った部分は分析した通り、両親に関連する過去のプライベートな記憶と業務の部分に限定されていた。そのため記憶の欠落部分に関係しない事や新しく覚えたオペレーションは誰の助けを借りる必要もなかった。

困ったのは両親が関与したモジュールに障害が発生した時だ。両親と結びつくシステム仕様の記憶がすっぽりと抜け落ちていた。何処を操作すれば良いのか、いくら考えても対策を思いつかないのだ。

実際に使っていたシステム名さえも思い出せない。モジュールやファイルを保存してある仮想サーバの名前や場所ファイル名も分からなかった。問題を探し出すキーワードさえ想像が出来なかったから検索システムへキーを投入する事もできない。

その様に周りの目をごまかしながら日々を送っている間に休暇を申請した日になった。いつもの様に眠られない前夜を過ごし、そして鈍重な朝を迎えた。前夜から「嫌な感じ」は部屋の暗闇に息を潜めて居た。ベッドの中に居てもその感じはピリピリと肌を刺激し存在感は鼓動を早めた。それは朝を迎えるまで暗闇に留まり離れる様子はなかった。

夜が明けてもカーテンの向こう側は明るくならなかった。カーテンを引くとどんよりとした雲が空一面覆って太陽の光を遮っていた。灰色に染まった陰気な街の風景を眺めていると、セットしたアラーム・クロックの乾いた音が部屋に響いた。

今までアラーム・クロックをセットする必要性を感じた事は一度もなかった。アラーム・クロックを意識的にセットする事によって便宜的に眠ると云う行為を行う事を脳へ送り込み、アラームを解除する事により便宜的に朝を迎えていた。銀色の金属で出来たアラーム・クロックを持ち上げ、持ち上がったボタンを押し下げる。

眠りから覚める言う行動には指先による物理的な刺激が有効とされていた。アラーム・クロックにはボタンが付けられているものをあえて選んだ。ショップでは音声感応式のモデルが主流だったがレトロなはボタン式のアラームも販売されていた。

仕事へ出るのと同じように支度を済ませ早出の出社時間からきっかり一時間遅く家を出た。灰色の雲が目の前にごっそり落ちてきそうな程重く垂れ込めていた。駐輪場にはすっかり枝だけになり北風に吹かれて寂しそうな桜があり不思議な事に、その枝の一つに季節外れの大きな蛾が止まっていた。それを目にした瞬間、

「この光景を目にした事がある……デジャヴだ」

と意識的にそう呟き、次に起こると思われる事実を予想し声に出してみた。

「次の交差点でインパクト・ブルーの乗用車が通り過ぎる、次の交差点でインパクト・ブルーの乗用車が通り過ぎる」

言葉を確かにするために呪文のように繰り返した。分厚い手袋を着け自転車のペダルを踏み駐輪場を出ると「次の交差点」が目の前に迫る。スピードを落とし交差点に近づく、車の排気音も気配はしない。交差点の手前に止まり左右を横切る道を右から左へ眺めたが、インパクト・ブルーの車など見当たらない。

その言葉が単なる思い付きであった事にほっと胸をなでおろし、気を取り直してもう一度自転車のペダルを駅へ向かって踏み直した。
本日の走行距離は5.2Kmです。

突然のBugsLifeでした。いやーぁ