失われた地底都市 - #2 -

タイトルをそう付けてしまった以上、やはり地底都市の事を書かなければいけないんだろうか……まぁいい、作者の好き嫌いに関わらず物語は続くのだから、そしてそれが作者と読者を結ぶ座標軸上の交点なのだから。

301号室キーを受け取るとベルボーイに続いてエレベーターに乗った。大きなエレベーターは無く動き階数を示す矢印が3階で停止するとゆっくりとドアが開いた。もし階数を示す矢印が取り付けられて無かったら、きっと動いているのか、止まっているのかどうか解らなかったかもしれない。

ヨーロッパ調の古風な作りの部屋は、そこが米国である事を忘れさせてくれる。パイオニア・スクエアといった歴史あるロケーションにある建物だからなのだろうか。間違いなくそこはヨーロッパから遠い新大陸の西の果だった。

「パイオニア・スクエア ホテル」なんとなくアメリカの開拓時代の匂いを漂わせる響きではないか。部屋には、巨大なキングサイズのベッドと、部屋の奥の角には、シアトルのウォーター・フロントの見える窓があった。窓の向こうには桟橋と太陽の光を反射しキラキラと漣が光る海が見えた。バスルームには、天井から水滴の落ちる夕立のようなシャワーと大きなバスタブがあった。天井まで届きそうな大きな窓からは、朝の心地良い陽射しがこぼれていた。

もう何度と無くそこと東京を往復していたが、それ程気持ちの言い朝迎えられたのは初めてだった。普段シアトルは鈍よりとした分厚い雲に覆われ、雨の多いノースウエスト特徴的な気候のこの街は、今日はやけに機嫌が良い。

機中の寝汗で湿った下着を脱ぎ、蛇口をいっぱいに開いて熱いシャワーを浴びる。用意されている柔らかく大きなバスタオルで体を拭きバスローブを羽織って。洗面台に熱いお湯を注いだ

オーバーナイト・フライトの時は、顎から頬にかけて影のように髭が広がっている。シェービング・フォームの缶を良く振り、暖めたタオルで皮膚を暖める。缶から泡を顎から頬に伸ばしシェーバーで伸びた髭を丁寧にそり落とした。

朝食を食べる程空腹感は無い。機中で食べたチーズオムレツがまだ胃の中で存在を主張していた。部屋に用意されている歯ブラシの箱を開け、ペーストを歯ブラシのブラシを上に伸ばしゆっくりと歯を磨く。急ぐ事など何もないのだ、その日は建国記念日で誰もが休みなのだ。何も慌てる必要は無いのだ。

新しい下着を着て、胸に大きくMicrosoftと書かれたTシャツにジーンズという格好でホテルを出た。空港で2杯もエスプレッソを飲んだのに頭にさらにクリアにするためには、もっとコーヒーが必要だった。スクエアの角にスターバックスがあるのを知っていた。

「パイオニア・スクエア ホテル」からパイオニア・スクエアへ向かって歩くと、スクエアの1つめの角にベトナム料理を食べさせる安いレストランがあり、交差点を渡ると角にスターバックスがある。

「グランデサイズの本日のコーヒーをくれないかな?」

と注文すると、赤毛でショートカットの店員から

「シュアー」

可愛い返事が返ってくる。友達のミランダに良く似ていると思った。カップを受け取るとスリーブの部分を持ってショップを後にした。オクシデンタル・アベニューまでコーヒーを溢さないように注意しながら歩く。どこへ行くという目的もなかった。ただ青空の下でコーヒーを飲みたかっただけだ。

オクシデンタル・アベニューは、骨董品屋やイタリアンレストランの並んでいる、寂れてはいるが、シックで落ち着いた雰囲気の通りだった。この通りはパイオニア・スクエアの西の外れから始まり、旧キングドームに向かって駐車場のはずれまで続いていた。

キングドーム側のコーナーには大きなアイリッシュ・パブがあり、ここがオクシデンタル・アベニューの終点になる。そのパブではアメリカ的なステーキや美味しい地ビールを出してくれる店なのだ。

パイオニア・スクエア側からキングドームへ向かってゆっくりと歩き始める。怪しげなスーパーマーケットと木陰にたむろするホームレスを除けば、このストリートは本当気持ちが良い。

樹木の間から零れ落ちる朝の陽射しは眩しく、朝の澄んだ空気リフレッシュさせてくれる。普段、到着後その時間から後は時差のために一番嫌な時間帯になるのだが、今日はそんな予感がしなかった。

日曜日はちゃんと11Km走ってますよん。気持ちよく走れました!走る人