失われた地底都市 - #1 -
壁に掛けられたデジタル時計を見ると午前6時を示していた。リストウォッチの針は10時を指している。それが日本の午前か午後か見当もつかない。長時間のフライトで確かに体は気だるかったが眠くはない。それには理由があった、普段の生活では眠れないのに機内で薬も飲まなくても思ったより長く眠る事ができた。
機内から建物への通路を渡る時自分の体が、どういった何時帯にあるのか見当もつかなかった。不眠症の寝不足とジェット・ラグが混ざり合いインスタントのスープの中に少しだけ残った固まりのように複雑な時差が体の角に残されていた、体はそんな時差にどう対応すればいいのか決めあぐねているようだった。
機体は正確に午前5時予定のスケジュールを守って着陸したが、入管へ着くと長い列が出来ていて到着ロビーに出るまでの間時を要した。ビジネス利用の多いシアトルの到着便は入管が厳しくいつもこんな感じだ。
少しでもおかしな挙動があると別室へ連れて行かれる。前にはスーツケース開けられ裏蓋やシェービング・クリームの中身まで綿密に検査された。通関を出て荷物をベルトに載せループ状のシャトルへ乗り込みターミナル・ビルへ向かう。シャトルを降りエスカレータを下がるとキャラセルがある。
荷物はシャトルと同じスピードでキャラセルへ届くようだ。背の高い黒人の係員は、苦い薬を1ヶ月分まとめて飲んだような顔をしてキャラセルの前をうろうろしていた。キャラセルへ行き荷物を取りバゲッジクレームのタッグを見せると、スーツケースに着いたタグと半券を比べてこくりと頷いた。
バゲージクレームを出るとシアトル・ダウンタウンのホテルの案内板がある。気に入った一つを選んで電話番号をメモし、予約を入れるために直ぐ横にある公衆電話へ向かった。受話器を取り上げダイヤルしようとポケットの小銭を探ったが、出てくるのは、成田空港で買ったフリスクのつり銭の1円玉や十円玉ばかりだ。
2階に出国ロビーがあり売店があるのは知っていた。直ぐにエスカレータを上がりスターバックスでエスプレッソを注文する。ポケットから1ドル札を二枚だし2ドルを渡すと料金が1.65ドルなのでクォーターとダイムを1ずつ受け取った。
つり銭のクォーターを公衆電話へ入れメモを見ながらホテルへ電話をかける。ホテルのフロント・デスクに繋がる
「部屋はある?」
と尋ねると、ホテルのフロント・デスクと言ったダミ声の男性は
「今日は一杯だ!」
と言って電話を切ってしまった、仕方なく2杯目のエスプレッソを注文し同じように小銭を用意する。それ以上エスプレッソを飲む事はできない。次で決めるつもりで、今度はもう少しグレードの高いホテルを選び電話へコインを入れる。今度のホテルは女性のフロント・デスクだった。シングルの部屋を一週間頼むと
「部屋はありますが、ダブルだけです」
シングルでなかればいけない理由もないので、その部屋をとった。大体、前日にいきなりシアトルまで呼び出すならホテルの部屋ぐらい抑えておくべきなのだ。それも建国記念日に当てるなんてなんて。
エスカレータを降りて、到着ロビーから通りへ出て、客待ちをしているタクシーを捕まえシータックを出る。タクシーは直ぐに高速道路へ入るとボーイングのテスト飛行場を左手に見ながらダウンタウンを目指してフリーウェイを北上する。
高速道路沿いには美しい森と湖が続く、そこから3時間も車で走れば美しいカナダの国境なのだ。アラブ系のタクシードライバーは、
「どうだ、こんな美しい景色は日本にないだろ」
と得意げに話し掛けてくる。
「工業国だろ日本は?」
日本には自然が無いと言いたいのだろうか。東京にこんな美しい自然は無い事は確かだ。
「こんなに快適に高速道路を走れるのはこの車が日本製だからだよ」
そう言い返すと、ドライバーは黙ってしまった。ダウンタウン迄はトラフィックにもよるが空港から30分程度だ。高速で20分も走るとダウンタウンのスカイラインが見えてくる。
スペースニードルはもはや街のシンボルではないのか、街の南こちら側からは高層ビル郡に邪魔されて見えなくなっていた。そのうち新築のスタジアムが見えてくる。古いキングドームは壊されて跡地は駐車場にでもなるのであろうか、その横ではかなり大掛かりな工事をしている。
フリーウェイのランプを降りるとインターナショナル・ディストリクトの一画に入る。朝のチャイナタウンは何故かエキゾチックだ。予約したパイオニア・スクエア・ホテルはここから直ぐ傍にある筈だ。ドライバーは、一度ウォーター・フロントへ大きく回り込んでからパイオニア・スクエア・ホテルに車を横付けにする。
気の良さそうなベルボーイが荷物をタクシーのトランクから出し、ダッグ付ける。ドライバーに35ドルを渡しているとベルボーイは
「フロントへ行け荷物は俺が運ぶ」
と言いたげにジェスチャーをしている。
パオイニア・スクエア・ホテルは、その安っぽい外観の割に内装はゴージャスだった。特に絨毯の敷き詰められた四畳半もありそうなエレベータに一度は乗る価値はある。古めかしいエレベータは、オークションに出せば高い値が付きそうな程立派なものだ。
レセプションには電話で受付をしてくれたと思われる女性がいた。ブルネットでエメラルド・グリーンの眼の上に四角い薄い眼鏡をかけ、てきぱきと対応する可愛い娘だ。
「1週間ですね、クレジットカード……、サインをお願いします」
そう言って微笑むと白い歯がこぼれた。渡されたカードと鍵には301号室と書かれていた。受け取って辺りを見回すと、先ほどのベルボーイがエレベータの前でこちらを見ている。
シアトルのダウンタウンには初夏の日差しが降り注ぎ、海からは気持ちの良い風が陸に向けて吹いていた。
今日も友達のロブの所に行ってきました。まぁ、一人で飲んでても寂しいので。後から別々にアダムとスティーブがやってきました。彼らは今日が初対面、どちらもカナディアン(不思議だ)まぁ、そういうシユエーションで、スティーブかアダムどちらからとも無く小さな木製のドラムと皮製のドラムを叩き始めた。
いつの間にか、ごく自然にドラムのジャムが始まる。本当に自然に、アダムが旋律を作る、スティーブが追う。そんなセッションが20分位続く、心に響く音だ、心に響くリズムだった。ふと思う……きょうこなした仕事はこんなに他人を響かせただろうか、かれらのセッション程の意味があったのだろうか?わからない……貴方の仕事も人の心を響かせていますか?
室内トレーニングです7.1km走りました。
壁に掛けられたデジタル時計を見ると午前6時を示していた。リストウォッチの針は10時を指している。それが日本の午前か午後か見当もつかない。長時間のフライトで確かに体は気だるかったが眠くはない。それには理由があった、普段の生活では眠れないのに機内で薬も飲まなくても思ったより長く眠る事ができた。
機内から建物への通路を渡る時自分の体が、どういった何時帯にあるのか見当もつかなかった。不眠症の寝不足とジェット・ラグが混ざり合いインスタントのスープの中に少しだけ残った固まりのように複雑な時差が体の角に残されていた、体はそんな時差にどう対応すればいいのか決めあぐねているようだった。
機体は正確に午前5時予定のスケジュールを守って着陸したが、入管へ着くと長い列が出来ていて到着ロビーに出るまでの間時を要した。ビジネス利用の多いシアトルの到着便は入管が厳しくいつもこんな感じだ。
少しでもおかしな挙動があると別室へ連れて行かれる。前にはスーツケース開けられ裏蓋やシェービング・クリームの中身まで綿密に検査された。通関を出て荷物をベルトに載せループ状のシャトルへ乗り込みターミナル・ビルへ向かう。シャトルを降りエスカレータを下がるとキャラセルがある。
荷物はシャトルと同じスピードでキャラセルへ届くようだ。背の高い黒人の係員は、苦い薬を1ヶ月分まとめて飲んだような顔をしてキャラセルの前をうろうろしていた。キャラセルへ行き荷物を取りバゲッジクレームのタッグを見せると、スーツケースに着いたタグと半券を比べてこくりと頷いた。
バゲージクレームを出るとシアトル・ダウンタウンのホテルの案内板がある。気に入った一つを選んで電話番号をメモし、予約を入れるために直ぐ横にある公衆電話へ向かった。受話器を取り上げダイヤルしようとポケットの小銭を探ったが、出てくるのは、成田空港で買ったフリスクのつり銭の1円玉や十円玉ばかりだ。
2階に出国ロビーがあり売店があるのは知っていた。直ぐにエスカレータを上がりスターバックスでエスプレッソを注文する。ポケットから1ドル札を二枚だし2ドルを渡すと料金が1.65ドルなのでクォーターとダイムを1ずつ受け取った。
つり銭のクォーターを公衆電話へ入れメモを見ながらホテルへ電話をかける。ホテルのフロント・デスクに繋がる
「部屋はある?」
と尋ねると、ホテルのフロント・デスクと言ったダミ声の男性は
「今日は一杯だ!」
と言って電話を切ってしまった、仕方なく2杯目のエスプレッソを注文し同じように小銭を用意する。それ以上エスプレッソを飲む事はできない。次で決めるつもりで、今度はもう少しグレードの高いホテルを選び電話へコインを入れる。今度のホテルは女性のフロント・デスクだった。シングルの部屋を一週間頼むと
「部屋はありますが、ダブルだけです」
シングルでなかればいけない理由もないので、その部屋をとった。大体、前日にいきなりシアトルまで呼び出すならホテルの部屋ぐらい抑えておくべきなのだ。それも建国記念日に当てるなんてなんて。
エスカレータを降りて、到着ロビーから通りへ出て、客待ちをしているタクシーを捕まえシータックを出る。タクシーは直ぐに高速道路へ入るとボーイングのテスト飛行場を左手に見ながらダウンタウンを目指してフリーウェイを北上する。
高速道路沿いには美しい森と湖が続く、そこから3時間も車で走れば美しいカナダの国境なのだ。アラブ系のタクシードライバーは、
「どうだ、こんな美しい景色は日本にないだろ」
と得意げに話し掛けてくる。
「工業国だろ日本は?」
日本には自然が無いと言いたいのだろうか。東京にこんな美しい自然は無い事は確かだ。
「こんなに快適に高速道路を走れるのはこの車が日本製だからだよ」
そう言い返すと、ドライバーは黙ってしまった。ダウンタウン迄はトラフィックにもよるが空港から30分程度だ。高速で20分も走るとダウンタウンのスカイラインが見えてくる。
スペースニードルはもはや街のシンボルではないのか、街の南こちら側からは高層ビル郡に邪魔されて見えなくなっていた。そのうち新築のスタジアムが見えてくる。古いキングドームは壊されて跡地は駐車場にでもなるのであろうか、その横ではかなり大掛かりな工事をしている。
フリーウェイのランプを降りるとインターナショナル・ディストリクトの一画に入る。朝のチャイナタウンは何故かエキゾチックだ。予約したパイオニア・スクエア・ホテルはここから直ぐ傍にある筈だ。ドライバーは、一度ウォーター・フロントへ大きく回り込んでからパイオニア・スクエア・ホテルに車を横付けにする。
気の良さそうなベルボーイが荷物をタクシーのトランクから出し、ダッグ付ける。ドライバーに35ドルを渡しているとベルボーイは
「フロントへ行け荷物は俺が運ぶ」
と言いたげにジェスチャーをしている。
パオイニア・スクエア・ホテルは、その安っぽい外観の割に内装はゴージャスだった。特に絨毯の敷き詰められた四畳半もありそうなエレベータに一度は乗る価値はある。古めかしいエレベータは、オークションに出せば高い値が付きそうな程立派なものだ。
レセプションには電話で受付をしてくれたと思われる女性がいた。ブルネットでエメラルド・グリーンの眼の上に四角い薄い眼鏡をかけ、てきぱきと対応する可愛い娘だ。
「1週間ですね、クレジットカード……、サインをお願いします」
そう言って微笑むと白い歯がこぼれた。渡されたカードと鍵には301号室と書かれていた。受け取って辺りを見回すと、先ほどのベルボーイがエレベータの前でこちらを見ている。
シアトルのダウンタウンには初夏の日差しが降り注ぎ、海からは気持ちの良い風が陸に向けて吹いていた。
今日も友達のロブの所に行ってきました。まぁ、一人で飲んでても寂しいので。後から別々にアダムとスティーブがやってきました。彼らは今日が初対面、どちらもカナディアン(不思議だ)まぁ、そういうシユエーションで、スティーブかアダムどちらからとも無く小さな木製のドラムと皮製のドラムを叩き始めた。
いつの間にか、ごく自然にドラムのジャムが始まる。本当に自然に、アダムが旋律を作る、スティーブが追う。そんなセッションが20分位続く、心に響く音だ、心に響くリズムだった。ふと思う……きょうこなした仕事はこんなに他人を響かせただろうか、かれらのセッション程の意味があったのだろうか?わからない……貴方の仕事も人の心を響かせていますか?
室内トレーニングです7.1km走りました。