注意:本章には性的な表現が使われています。作品の表現に必要な範疇に留めたいと考えておりますが作者と読者の理解の違う場合がありますのでご理解ください。若年層の方及び性表現に嫌悪感を抱かれる方はご遠慮いただく事をお願いいたします。
近未来の世界、人々は高度な電子化へ対応で不眠症に苦しんでいた。「NDT Inc.」社は、独自開発した特殊装置で不眠解消のために「夢」を売るサービスを提供していた。装置の悪用を計画する非合法プロバイダ「MAL(マル)」。NDT社の社員である「不眠症の主人公」と恋人「ケィ」が装置をMALから守るために繰り広げる「近未来・冒険・ドリーム・ラブロマンス」BugsLifeをお楽しみください。
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16.山を降りる ~ Day Three #1~
浴室に備え付けられた石鹸を使って念入りに体を擦る。鏡には自分の体が映っているが、どこか他人の体のような気がしてならない。シャワーの前に備え付けられた大きな鏡を改めてみるとどこかが欠けてしまった中途半端な自分がいるような気がした。鏡に映してみた上半身には幾つもの引っかき傷がみみず腫れになって残っていて、前の夜の出来事の様子をはっきりと物語っていた。
でもその具体的な事実を思い出せない事がもどかしかった。加えて昨夜受けた快感が頭の何処かに残り、頭の中を寄生虫が這い回るかのようにムズムズと落ち着かない。何故か理由は不明だ。前夜に感じた、未知の広く深い快感に気持ちが揺れた。
今まで経験してきた性的な感覚は、短時間で終わるハイスピードのローラーコースターのように一方向に向かう集中的で刹那的な快感だった。でも前夜の快感は、長距離のローラーコースターの様に随所にアップ・ダウンがあり継続的でとても広く深い所で広がりを持っていた。
その感覚の源泉を知りもう一度体験したい。そんな欲求に頭の中が支配された。
鏡を見ると自分自身が大きさを増し硬くなっていた。右手の掌を石鹸から持ち替えてゆっくりと動かす。シャワーのお湯が額に当たり顎を伝って胸そして下半身へ流れる。
掌を動かしながら左の掌を壁に押し付け体を支える。動きを早め前の夜にと同じ快感を求めるが、得られるものは全く質が違いいつもの感覚だった。ジェット・コースターのような頂点が訪れ、掌の中に残る白い液体と共に刹那的な快感が終わる。明らかに昨夜の感覚でも、求めている間隔でもない。失望と疲れが一度に訪れる。
あの感覚が忘れられない……石鹸とシャワーのお湯で入念に手を洗い流し、浴室を後にバス・ローブを羽織って寝室へ戻った。ジーンズとTシャツを着けてダイニングへ行くと、シリアルとフルーツが並び、コーヒー・メーカーは煎れ終わろうとしていた。ダイニングは挽きたてのコーヒーの香りが漂っている。
ケィは真っ黒の大きめのエプロンをはずそうと肩紐に手をかけた所だった。
「あっ、やっと起きたのね。おそかったじゃない何をしていたの。さぁ、用意できているわ」
「あぁ…」
返す言葉も無くテーブルに着きケィの作った食事を楽しむ。煎れたてのコーヒーのカフェインが脳の血管を広げ、考えの輪郭がはっきり見えるようになる。シャワーの時に感じた喪失感は1個だけ失われ卵の様に卵の容器には一つだけ空室を残している。
煎れたてのコーヒーの効果なのかどうかはわからないが、明らかに前日までとは違う自分がいる少し顔をあげるとケィの輝いた笑顔があった。その笑顔から受ける「自信」もまた前日と違うような気がした。
窓の外は深い霧が降りて遠くの山々は霧に覆い隠され、湖水と山の境界もまた霧に覆い隠されていた。細かい雨が湖水を打ち鏡面のような湖面には無数の波紋が続いている。朝食を済ませて荷物をまとめると二人で大きなレイン・コートに入って散歩に出た。霧が広がり針のように細い雨の降る森をゆっくりと散歩する。
高原の秋はもう始まっている。霧の隙間を通り抜ける細い雨は、針葉樹の葉を打ち大きな水滴に成長して地面を打った。秋の細い雨はレイン・コートの隙間を縫って心の奥深くに染込んでいくような気がした。
ケィと二人なら寒さは感じない、細かい波紋が作りだす奇妙な模様を眺めながら湖畔を散歩した。会話はいらない……そう感じた。時折吹き抜ける風が枝を揺らし大きな雨滴を地面へ叩きつけ、葉と雨滴が作る音がリズミカルに響いていた。
湖畔を1/3程歩きそこから同じ道を引き返して、同じ湖畔の波紋を眺め、そして雨音を心の奥へ刻み込んだ。コテージへ戻ると、まとめた荷物をRVのトランク・ルームへ押し込み、セル・モーター大きな音を響かせエンジンをかけた。
細かい雨がフロント・グラスを濡らす。ワイパー・アームが目の前を通るたびにキーィ、キーィをいう金属音をたてている。ケィは着いた日と同じようにメモリー・カードを選びコンソール・パネルへ押し込み好みの曲を選んでいた。
コテージの前で車を方向転換して静かに来た道を戻り、キャビンの前で止まりギヤをニュートラルに入れ、サイド・ブレーキを引いて、車窓からキャビンの中を見る。キャビンには灯りが灯っていたが人の気配がしない。ケィのメモリー・カードを選ぶのを止め、キャビンの中を一緒に覗き込む。
エンジンをそのままにして、扉を開けると細かい雨が手や顔に当たる。素早く扉を閉めてキャビンの階段を駆け上がり屋根の下でドア・ノブへ手をかけた。背中で同じように扉の閉まる音がしてケィが続いて屋根の下へ駆け込んできた。
「私もお礼を言いたい」
扉を押すとスッっと開いた。ケィの手を取ってロビーへ入った。暖炉の撒きは燃えていたが人の居る気配は無い。レセプション・カウンターの上を見ると、文字お書かれた紙と封筒が載っていた。近づいて見ると紙はプリントされた書置きだ。
「大変恐縮ですが、冬の支度をしなければいけなくなり山へ向かいます。残念ですがお見送できません。お帰りの節は、キィを入り口の直ぐ脇にある返却ボックスへ落としておいてください。
ネットでのご予約ですので料金の清算は終わっております。追加料金はありません。レシートと明細は封筒に入っています。気をつけてお帰りください。またいつかお会いできる事を楽しみにお待ちしております」
やぁ、ちょっと恥ずかしいなぁ~

【君を思う】君は今何を見つめているのだろう。