「A love in the soup」
イミグレーションを抜けるともうバゲージ・ピックアップのキャラセルが動き出していた。可愛い麻薬取締り犬がその回りを走り回っている。犬と一緒に働く取締官達も鋭い目つきできびきびと動きまわっていた。
犬は預けた荷物や手荷物をかぎまわり、怪しい匂いを嗅ぎ分けた動作をすると取締官がが近づいてきて容赦なくて荷物を開梱する。そこを越えると次に非常に厳格な検疫があった。食品を忍ばせている乗客はここで足止めを食う。食品を持ち込む事はできない。ここで全て没収なのだ。
異常なまでの厳しさが、農業国オーストラリアの自然環境を確実に守っていた。歴史的に長く北半球からの種の流入を拒んできたその大陸は、運輸や交通の発展のために、今その種が脅かされている。空港職員らはまるで最後の砦を守るように働いていた。
検疫を抜けると到着ロビーだ。どこへ旅をしても到着ロビーへ抜ける瞬間は嫌なものだ。扉を抜けると出迎えの人の目が瞬時に自分を凝視する。ある人はがっかりした表情を浮かべ、別の人は悲しそうな表情を浮かべる。彼らにどんな事情があるかわからない。でも自分の顔が彼らの失望の原因になった事は確かなのだ。
そんな意味で出口の扉はあまり好きになれる場所ではなかった。確かにそのドアの直ぐ向こうには新しい国があり旅の始まりがある。心が弾む場所でなければいけない筈だった。予想通り出迎えの人々の目が集まり顔を覗き込む。
目の前に沢山のウェルカムカードが掲げられる。また片言の日本語で「〇〇さんですか?」と話かけられたりする。西海岸、アジア、どこの国でも馴染みの光景だ。
計画もなくふらりと出た旅には出迎えてくれる相手などいる筈もない。充分なキャッシュは日本で両替を済ませてあるので両替所へ寄る必要も無い。人々の目を無視してスタスタとレンタカー・ブースが立ち並ぶコーナーへ向かう。
日本で予約を入れたレンタカー会社のブースへ行き予約番号を告げると直ぐにキィが準備され、保険の手続と車の返却場所の説明を受けるとそのキィを渡された。最後にブロンドのレシェプショニストが、
「キャッシュは持っているか?」
と尋ねた。
「えぇ(y,yes……)」
と答えると
「いいわOKよ」
という風に言われたが、何がOKなのか意味が飲み込めない。パーキングを出るためのチケットは受け取っている……何処でキャッシュが必要になるのだ。空港パーキングの指示された番号の場所へ行き、キーナンバーと一致する車を探す。車の数が多すぎて探すのに苦労したが、奥の列の通路側から3番目に同じ番号の車をやっと見つける。
ライトブルーのまだ新しい小奇麗な日本製のコンパクトカーだった。一人で乗り回すには充分な大きさだ。荷物を置き、車の周りを一周して車異常が無いことを確認する。
確認が終わると運転席側に回りこみキーを使ってドアを開けると、運転席のロックが外れる。電気式の集中ドアロックに慣れているので物理ドアロックは懐かしい。シートに腰を下ろしハンドルの周囲をチェックする。日本製の車なのでコンソール周りは国内で乗る車と同じだった。
クラッチペダルを深く踏み込みギアをニュートラルに入れキーを回す。キュルキュルとセル・モーターの音がしてエンジン振動がハンドルへ伝わってくる。
全てが順調に思えた。一度エンジンを切り、引きずってきた荷物をリアのトランクに押し込み、地図を確認してエンジンを再び始動する。ハンド・ブレーキを外してギアをロー入れアクセルを踏み込むと同時にクラッチをつないだ。
電気自動車のようなエンジン音のする乗用車は軽快に動き出した。ブロンドのレセプショニストがくれたチケットをゲートの機械の中に入れて抜ける、空港の敷地から出ると直接高速道路へ乗った。
昨年行った米国とは違い、左側通行なので初めてのドライブでも緊張を感じず快適だった。米国では慣れるまでに反対車線を走る違和感や右左折の不安感がつきまとう。
それでも、ラウンド・アバウトは勝手が違う。ここではトラフィック量が少ないからか交差点は信号の代わりにラウンド・アバウトなのだ。
右折する時でも先ずは左から回り込む、左のウィンカーを出し左へハンドルを切る。右から来る車が優先なので右を見ながら、左へハンドル切り右折しなければいけない。
慣れてしまえば日本の信号より快適だ。長い間信号で待たされることも無くそのまま交差点を利用してUターンしてしまう事も可能なのだ。
オーストラリアの交通事情を復習しながら右車線にレーンを変更する。右手にブリスベン市内を横切り大きく曲がりくねったブリスベン川と市内の風景が見えた。高速道路に架かる大きな橋が川を跨ぐ。渡りきると料金所があり通行料を支払わなければいけない。ブロンドの彼女の言っていた意味がここでやっとわかる。
ここから目指すサーファーズ・パラダイスは、渋滞がなければ1時間程度だ。料金所の向こうには海に向かって高速道路が青い空へ向かって一直線に続いていた。
ラジオのスイッチを入れるとオーストラリア訛りのDJがその日のサッカーの試合結果を話している。音楽の番組に変え乗りの良いロックを聴きながら車を海(太陽に)向かって走らせた。
- 完 -
何故「A love in the soup」か、
実はオーストラリアでのサーフィンにまつわる話(Soupの中で芽生えた恋物語)を書こうと考えたのですが、主人公が海に着くまでに、作者が力尽きてしまいました。
続きはいずれゴールドコースト編で……
今日は5.2km Run 2Km Swiming. 明日は野外だぞ!(野外やめました……レストランにします)
【君を思う】君はいったい何をしているの?僕は連絡を待っているのに。