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「13.ロッジの夜 ~ Day One #1 ~」


配置図を確認し、鍵の番号と同じロッジの玄関の芝生の上に車を停めた。回りを白樺の木々に囲まれた大きめの建物だった。先ほどのキャビンをコンパクトにしたログハウスだ。車を降り、早速荷物をキャビンの中へ運び込んだ。


中も先ほどのキャビンを縮小したように右の壁には石積みの暖炉があり、正面はフレンチ・ウィンドウになっていた。正面のフレンチ・ウィンドウの先にはウッドデッキのテラスがあり、さらにその先は湖が広く見渡せた。中に入るとケィは驚嘆の声をあげた。


「何て素敵な所なの……思っていた以上ね」


「うん、素敵な場所だ」


そういってケィとフレンチ・ウィンドウを開けテラスに出て柵に体を凭れ掛けて湖を眺めた。周囲を見渡せる程の小さな湖は、山と森に囲まれとても静かで落ち着いたたたずまいをしていた。風はなく鏡のような湖面に周囲の山々をくっきりと映し出していた。


西に傾き始めた太陽は周囲の山頂を目指している。湖を囲む高い木々の影は湖面へ長く伸びまるで縞の模様のように湖面の淵を彩っている。ケィと相談して暗くなる前に湖畔を散歩する事にした。ケィは荷物のアン・パックッキングする手を休め、荷物の中からデニムのジャケットを出し羽織った。


湖の周囲には森を縫って人が散歩できるだけのトラック・ロード(ハイキング・コース)があった。トラックの入り口には道の案内図があったが、森の中の道はそこを人が歩く場所である事がわかるようにはっきりと白い石で印がおかれ踏み固められていて、地図を見る必要はないようだ。


木々の間を抜ける細い道は起伏があり、木の根を登ったり降りたりして、周囲が七キロ程湖のぐるりと回るようにつくられている。土や落ち葉を踏みしめ、滑り易い木の根を越える。湖面は常に左手に見え、白い玉砂利の湖岸には沢山の白木の流木が流れ付いていた。


ケィの手を取って話しをしながらトラックをゆっくりと散歩する。時々吹き抜ける微風が湖面に小波を立て太陽の光が反射し散りばめたクリスタルみたいにキラキラと輝いた。湖畔へ出ると、流れ着いた白い小さな流木が波打ち際で上下している。透き通った湖水は遮る物も無く湖底を何処までも見通す事ができた。


平坦な道に出るとケィは腕を絡ませてきたので、それに応じ腕を組んで秋の空気や樹々を楽しみながら歩いた。真っ直ぐに伸びた樹々の上では飛び立つ鳥達が枝や葉を揺らし、音を立てた。


陽が大きく山間に傾き、山は影をのばし、影は夜を導くように広く辺りを覆った。話をしている間にトラックの出発地点へ戻っていた。湖畔をぐるっと一周して出発点へ戻ったのだ。陽は丁度山頂の下へ隠れようとしていた。空気は、太陽の見えなくなった場所から次第に温度を下げている。


ケィをみると寒そうな様子だった。鍵を受け取った時に管理人が言った事を思い出した。部屋へ戻る前に事情を話し管理事務所へ行こうと提案するとケィは


「うん」


と頷いた。木の階段を昇りデッキを横切って管理事務所の扉を叩くと、管理人の老人は一人がけの大きなソファに座って本を読んでいた。扉を開けると顔を上げ眼鏡を外し読んでいた本を伏せこちらを見て。


「来たね、さぁ、こっちに座りなさい。今ココアを入れるから」


そう言って立ち上がった。暖炉の横にあるソファの長いすへ座るとケィも同じ椅子へ腰を降ろした。部屋まるで音が奪われてしまったかのようで、暖炉では薪がパチパチはじける音だけが部屋に響き渡っていた。
しばらくすると老人が大きなマグカップを2つ持てキッチンから戻ってきた。そして二人も前へマグカップを並べると、先ほどのソファへ深く腰を下ろした。


「読書のじゃまをして申し分けありません」


そう詫びると、


「ごめんなさい」


ケィが続けた。


「いいんですよ、こちらがお誘いしたのですから」


「あっ、紹介します。彼女は友達のケィと言います」


「はじめましてケィです。」


ケィが挨拶をすると老人も返す。ココアのカップを口へ運ぶとケィもそれに続く。ココアの甘い香りがカップの上に漂っている。温度を確かめるようにマグカップの淵に唇をつけ少しずつココアを口に入れる。


「荷物はもう落ちついたかな?」


「いぇ、今まで散歩していたのでまだ何もしていないんですよ、本当に美しい所ですね。パンフレットの写真以上です」


「えぇ、素晴らしいわ」


「ほぅ、ありがとう。ここの自然にはまだ人の手がほとんど入っていないんですよ。だから自然の美しさがそのまま残っている。私にとっては大変な事もありますが、大切な物なんです」


そう言うと老人は窓の外へ視線を移した。外はもう暗くなっていて山の稜線が落ちていった陽のなごりでぼんやりと紫になっていた。稜線の上には細い上弦の月が、太陽を追いかけるように山の向こうへ隠れようとしていた。



暑い日でした。暑い日に寒い話を書くのは相当な想像力が必要です。

川柳で・・汗かき 寒い話の 残暑かな  エド吉