これまでのお話 http://www.geocities.jp/konandai_3rd/Data/bugslife.htm
「10. 研修室」
※This story would be revised to refine and adjust in future .
Thank you for your understanding. ED.
新入社員達は直ぐに落ち着きを取り戻した。少しの騒ぎはあったものの大きな騒ぎにはならなかった。平静に戻った新入社員達は講義を受ける準備を整えて直ぐに講義プログラムを起動した。
1キロメートル先で落ちたコインの音が聞こえてきそうな静寂が研修室を満たしていた。目を閉じると僅かに彼らの呼吸が聞こえてくる。ゆっくりと整った呼吸は彼らが知識を吸収している証拠だった。
その講義は少し風変わりだ。U-4のイメージ・ジェネレーション機能を使い普通と異なる効率的な学習法が実現されていた。今後の実務遂行のためU-4のアーキテクチャやオペレーションの習得を必要される。内容は一貫してテクノロジィを中心とし、与えられた資料も技術的な項目に限定されていた。
新入社員達が最初に覚えなければいけない事は、U-4とインターフェイスを確立する事からだ。続いて研修VRプログラムの中へ入り、U-4のシステム仕様やオペレーションの知識を学ぶのだった。
通信チップの適合手術を受けていない社員は、視覚とキーボード入力によりU-4とインターラクションが必要だったが、研修生は既にチップの適合手術を既に受けていたので、論理的なプロトコル・シーケンスを覚えるだけで直ぐにインターラクションする事ができた。
体を包み込む様に作られた玉子の形状をしたポッドの中へ入り、低反発性のシートに深く潜り込む。体に合わせシートが深く沈み包みこまれるような格好でシステムをナビゲーションできた。
ヘッド・レスト部分にはU-4の無線端末がインストールされていた。構造は、病院の治療を行う時でも、「ドリーム・カフェ」や「セミナー」で利用される時もハードウェアに大きな違いは無い。
唯一の違いは、夢を生成するプログラムのアルゴリズムだった。医療用や教育用に作られたプログラムは、神経の奥深くに作用する様なアルゴリズムを持った「ナーブ・コア」に接続する事ができた。
「ナーブ・コア」への接続は、極度な痛みや悲しみのフィードバックや、深層レベルの深い神経組織へ作用する事を可能にする。「カフェ」や「セミナー」に使うプログラムは「ナーブ・コア」へ接続する事は許可されていない。神経組織の深層部への接続は、「カフェ」や「一般の研修」では必要無い筈だった。
深層部へ到達する幾つかのメソッドは、抗精神剤や幻覚剤として作用し、利用者は幻覚剤や覚醒剤の投与と同じ感覚を得る事が出来た。
常習性を伴うこの感覚は、大きなリスク(危険)を伴ったため、政府機関と上位クラスのプロバイダはU-4のナーブ・コアに強力なプロテクトを施し、一般のプロバイダへの機能提供を制限した。
この機能に目を付けた非合法なプロバイダは、幻覚作用や覚醒作用を利用するために、地下へ潜り、このプログラムを利用して中枢神経を直接刺激する高額なサービスの提供を始めるための試みが始めた。
彼らは、「ナーブ・コア」へのインターフェイスをハッキングし、システムから神経中枢をコントロールするメソッドを呼び出し、プログラムをダウンロードしてかれらのシステムへ取り込んだ。そして、彼ら独自のシステムでU-4システムをバイパスして地下の「カフェ」やダーク・ファイバーで、利用者に直接提供するサービスを始めた。
当局は取り締まりを強化し、ハッカーやクラッカーの存在と同様、摘発と出現が繰り返された。非合法なプロバイダはアクセス・ポイントを動的に移動し存在を消しては上位プロバイダのU-4へ侵入し、新しいメソッドのダウンロードを繰り返した。
当局は、セッションを強制的に切断してしまえばシステムへの介入を防ぐ事ができたが、無数のセッションの中から正当性を判断するのはほぼ不可能だった。間違って正当なシステムを切ってしまう事は、より大きな事故を招く可能性を含んでいた。
幸運な事に、彼らがダウンロードできるメソッドは完全なものではなかった。「ナーブ・コア」内にはリロケータブルな「ドグマ」と呼ばれるワームのような働きをするプログラムが存在し、ナーブ・コアはそれを動的に不規則に呼び出すように設計されていた。
ナーブ・コアは「ドグマ」の著しく依存しているためナーブ・コアをダウンロードしただけでは不完全なシステムだった。U-4の広大な物理メモリ内を自由に動き回る「ドグマ」はシステム管理者でも実体を補足する事は難しい。
過去にコンソールから「ドグマ」を補足してトレースしようと試みたが、「ドグマ」は、こちらを振り返って、あざけ笑い吹雪の中に消える魔女に様にシステムの奥へその姿を隠してしまった。
非合法プロバイダはこのドグマを捕獲するために懸命になっていた。一度だけ、「ドグマ」を補足する事に成功しリバース・エンジニアに成功する所までいったが、生き物のように移動し動的に変化する「ドグマ」の構造を完全に解明する事はできなかったようだ。
彼らが解析した、「ドグマ」のメッセージ・パターンのレポート内には、「ドグマ」もまたキィとなる別のメソッドを呼び出しているという推察が書かれていた。この情報は彼らの内部からネットへ流出し多くのプロバイダの手に渡っていて、我々もメッセージ解析に追われていたが、これもまた未知の部分だった。
U-4の開発者が死んでしまった今この「ドグマ」の構造は謎に包まれたわけだ、我々と非合法プロバイダの間で「ドグマ」の解析と解明の競争が始まっていた。
非合法プロバイダは、「ドグマ」をバイパスしてナーブ・コアを駆動するためのスタブを作ろうと試みていた。しかし「ナーバス・コア」の完全性を再現できるようなコピーは未だに開発できず、その試みは成功してはいなかった。
研修生はU-4への認証を済ませると、研修プログラム・ユニットへ進んだ。その様子はイメージ・コンソール・モニターと呼ばれる特殊な端末から監視する事ができる。
イメージ・コンソール・モニターは、通信チップを装着していない人へのヘルメットのようなグラフィカルなモニターだ。
当初は端末として開発されたが、モニターの画面表示能力の限界と通信チップの爆発的な普及により限定的に生産された出力装置だった。チップを装着していないユーザはこの端末を通してU-4インターラクションするしか方法がない。
作成した研修プログラム内に彼らが入っていく様子がわかった。彼らは寝たままにしてこのプログラムの中でU-4システムについて学習するのだ。彼らはノートを取る必要もなければ、退屈な講義を聴く必要も無く、そこにあるイメージを脳へインプットするだけだ。
U-4からイメージをインプットする能力は個人により異なる。選抜された研修生の能力は今まで見たことも無いほど格段に高かった。研修プログラムが瞬く間に消化されていく。充分な量を作ったつもりだったが、その一日、持たせられるか不安になってきた。
しかしさすがに3時間を過ぎるとインプット能力の低下が現れてきた。それでも普通の人々と比較すると驚異的な値を示している。良く見るとその中に、開始当初と同じ値を示している生徒が3名いた。彼らは疲れを感じないのだろうか?
まるでビデオ・ゲーム一日中続ける子供のように疲れた様子が無く、研修の習得スピードに変化は無い。3人をトレースしてみると2人は綺麗な線形を描いてプログラムを消化していた。記憶するプログラム・シーケンスは研修資料の作成時に想定した最短で効率的な理想的なステップを踏んでいた。
驚いたのは残りの一人だ。想定した研修プログラム・セオリーを完全に無視しているように見えた。荒唐無稽な動きは全く予想ができない。研修プログラムを作った本人があきれる位だ、動きをみていると怒るどころか、笑いがこみ上げて来るほど気持ちが良かった。
まるでモザイク模様のように研修プログラムを消化していく、ヒントとして与えたガイドラインも全く無視していた。オブジェクトをクリックし、プロパティから研修生の名前を表示する。
「#10: Kimura Kei – Female」
とモニターに表示される。イメージ・コンソール・モニターから顔を出し10番ポッドの場所を確認し、その場所にどんな研修生が入ったのか思い出してみた。その容姿を思い出すのは然程難しい事ではない、研修が始まる前に扉の向こうで体当たりをして怒鳴った生徒だったからだ。
黄色のキャミソールの白いカーディガンを羽織、七分丈のフィットしたあまり綺麗とはいえないデニムのジーンズを履いていた。ショート・カットで栗色の髪の毛、日に焼けた肌の少女はあまりお洒落とは言いがたかったが、はっきりと存在を伝えていた。
それが「ケィ」と始めての出会いだった。
本日は休息日なり。0Km Running