ここまでの話 http://www.geocities.jp/konandai_3rd/Data/bugslife.htm


「8.通信チップ」


改札を抜け地下街から地上へ上がると湿気を含んだ空気が肌にまとわり付く。湿気は家を後にした時とあまり変わっていない。地上に上がると出入口の脇に広がる公園の鬱蒼と茂った樹々の中から、煩い程の蝉の鳴き声が固まりとなって迫ってくる。


そこは都会という無機質な空間にできた、異次元のオアシスの様だ。見上げると樹々上にオフィスのある高層ビルの上層階があり、公園や道路を往来する車や歩行者を雲の上から見下ろしている。


公園のゲートを抜け、砂利を敷き詰めた通路を通り、モニュメントと涼しそうに水を噴き上げる噴水の横を通り抜けて反対側のゲートからオフィス・ビルの裏にある通用口の前に出た。ブリーフケースからIDを取り出しセンサーに翳すと、ガチャという重い金属音が響く。


重い扉を引くと中は直ぐに別の扉があり、そこでもIDチェックが行われる。通信チップを埋め込んでいるものは、そこより先Iは、IDによるチェックをしなくても良い。センサーが登録された通信チップのシリアル番号と脳からの信号による生態認証を自動的に行う。


通信チップによる生態認証は、埋め込まれた通信チップと脳から発生する個人特有の微弱な電波によるパルス・パターンを照合する認証システムだ。脳のパルス・パターンと認証情報を照合するため強固な認証システムと言われており、現時点ではプロテクションを破られたという報告は上がっていない。


通信チップそのものは、脳のパルス・パターンや通信チップのシリアル番号、データ・ベース上の様々な属性を組み合わせて照合するため、外部からハッキングを受ける事は100%不可能と思われてきた。しかし、約3年前に発生した「人格交換事件」と呼ばれる通信チップへのハッキング事件が起こっている。


事件は、脳細胞への外部からのハッカーの介入により2人の人間の人格交換が行われて人格が入れ替わってしまったというものだ。脳細胞は急激な変化に耐え切れずなかった。この二人は精神障害を起こして、現在も郊外の病院に入っている。


事件の発生以降、チップを埋め込んだ人達の間では「ジャミィ」と呼ばれるネックレスやブローチが流行となりファッション化と共に物理的なプロテクションとして広まった。そしてそれ以降事件は起こっていない。


「ジャミィ」は名前の通り、単純に通信チップへアクセスする通信をジャミングしてしまう装置だ。装着すると正常な通信を含む通信チップへの全ての介入は、どのような条件下においても許可されなくなり外部の電子ロックとして働く。


通信チップを埋め込んだ社員は、ビルの通用口である第一ゲート(G1)を越えた安全なエリアで「ジャミィ」を切らなければビル内へアクセスする事は一切できなくなるが、外してしまえば以降のゲートは全てチップによる認証により自動的に開くようになっていた。


反対に通信チップを埋め込んでいない社員は、G1からG5と呼ばれる全てのゲートで異なるID認証や生態認証等の複数の複雑な認証を全てパスしなければオフィスへ辿り着く事ができない。


入社後直ぐにチップを埋込手術の希望を聞かれて、希望を申し出た社員には会社の負担で通信チップの手術を受ける事ができた。


通常精神疾病の場合には、チップを埋め込む手術に保険を適用できたが、エンターテイメント用の目的で手術を受ける場合に適用されなかった。簡単で手軽になったとはいえ、病院での高度な埋め込み手術はまだ、まだ高価だった。


しかし、多くの人々はハッキングのリスク負っても、高価手術料を支払っても、通信チップの埋め込み手術を受けた。U-4はそれほど魅力的な発明品だった。


この会社に勤める限り毎朝この認証手続きを続けなければオフィスへ入る事さえできない。G1に始まりG5まではそれぞれ業務の機密度に併せた部署のオフィスが配置され、それに併せた認証が行われた。


我々の部署はU-4のコア・システムつまりは最高機密を扱うG5の向こうにあり、オペレーション・センターもこのエリアの中に置かれている。通信チップを埋め込んでいないので、毎朝多くの手続きを踏んまなければオフィスへたどりつけない。


通信チップを埋込まず面倒なゲート認証に苦労を重ねているのには理由があった。


「幼少の頃友達と公園で遊んでいる時に頭を強く打って記憶を失くす事故に会い、通信チップを埋め込むには危険だ」


と亡くなった両親から言われてきたからだ。髪の毛の下には事故による大きな傷跡があり、髪の毛を短くすると痛々しく現れた。自分自身その時の記憶は全く無かったが、両親がまだ生きていた頃、話を繰り返し聞かされていた。


U-4を取り扱う技術者がU-4を利用できないなんて皮肉な話だった。部門の中でも宗教的な理由で装着をできないスタッフを除いて、U-4の技術者で通信チップの手術を受けていない人は他にいない。


両親はU-Xシリーズのコア・システム開発者なのに、幼少の頃の怪我を理由に通信チップの装着手術を完全に禁止し、通信チップに関する話題を封印した。


そのためきプライベートでは通信チップの事をほとんど考えなくなった。状況が変わったのは両親の葬式が終わってから数ヶ月たった時だ事は、チップのユーザ・プロファイルを整理してアーカイブしていた時に偶然見つけたのだ。


その時は驚きで言葉も出なかった。何故彼らが、通信チップを付けている事を隠していた。そして話題を封印してしまった。その理由は今になってもわかっていない。


それ以来、時間があれば、データ・ベースの中のデータを探しまわってきたが、未だにその理由へ辿り着いていない。


G2を抜けステンレスのような金属で囲まれた長い廊下を歩いて幾つかのエレベータを乗り換える。ビルの上層に位置するG5にやっとたどり着いた頃にはG1ゲートへ入って10分も経過していた。


G5の前に立ち最後のDNA認証を行う。G5の中は完全に外部と隔離され、まるで巨大な銀行の金庫の中に入るような厳しさだ。


この中にはU-4のコア・システムが置かれ稼動している。ケィはそのオペレーション・ルームの中で待っているのだ。大きく深呼吸をし、核戦争が起こってもびくともしないぶ厚い金属製の扉が開くのを静かに待った。


今日も暑かった、天気予報では水曜日だと言っていますが、やれやれ。ショック!

伝授されたレシピで枝豆食べました。ビールと枝豆最高の組み合わせです。グッド!