「NDT U-4 v.1」


職場への駅に着くまでの間、ショルダー・バッグから雑誌を取り出して技術専門誌の今障害が発生しているシステムについての特集記事のページを開いた。


前日に雑誌を買ったのは、電車の中刷り広告でたまたまその特集記事のタイトルを発見したからだった。雑誌をショルダー・バックに放り込みそのままにしていたので、電車に乗ってバッグの中を見るまで雑誌をそこへ放り込んだ事をその時まで忘れていた。


雑誌にはシステムが登場した経緯から技術的な内容に及ぶ詳細な解説が書かれていた。そしてその内容を要約すると次のようになる。


高度にIT化が進みサービスが多様化すると、引っ張られるように人々のワーク・スタイルも多様化し変化した。24時間停止しないシステムとサービス提供が当たり前になり、人々もそれに合わせてメンテンス、運用、カスタマ・サービス等の対応を余儀なくされていた。


24時間働かなくてはいけない環境の中では、その弊害として様々な疾病が生まれる事になった。アルコール依存症、ドライ・アイ、肩こり、躁鬱病等もその一例だ。その中でも人々の一番大きい問題となったのが「不眠症」だった。


24時間稼動するサービスやシステムに対応するために、人々の睡眠が劇的に変化した。人々は寝る事を拒むように、自らの睡眠時間を削り仕事と余暇に割り当てたのだ。その結果,24時間稼動のサービス・ビジネスは雪だるま的に拡大し、それに対応するシステムが求められた。


「NDT U-1」はこの不眠症を解消するために開発されたナノ・ドリーム・テクノロジィ社で開発された医療用の不眠解消ユニットだった。ユニットは、各国の病院へナノ・ドリーム・テクノロジィ社から直接提供され、医療現場において広く利用され絶大なる効果を上げる事に成功した。


さらにNDT U-1に躁鬱病に対する追加フィーチャを導入したのがNTD U-2だ。しかし、NDT U-1もU-2も高価なシステムであったため、一部の大きな病院へ導入されただけに過ぎなかった。


当初、U-1, U-2は医療機器として完全な認可が下りていなかったため、保険が利かず、高額な支払いが可能な裕福層の患者のみが利用する事ができた。


U-1,U-2の効果が認識されるようになると、機関も正規な医療機器としての認可をしないわけにはいかなかった。認可が済むとこの機器の利用にも保険の対応が可能になり、利用者は一般の人々にまで広がっていった。


しかし社会システムの進歩と共に膨れ上がった一般の患者が巨大病院へ殺到した。そのため病院のU-1,U2システムの予約はほぼ数十年先まで一杯になってしまった。

この問題を解決するために、システムを汎用ネットワークに対応し巨大病院だけでなく、街中の小さな病院でも巨大なシステムを導入する必要がなく簡単に利用できるようネットワークに対応したのがNDT U-3だった。


U-3はナノ・ドリーム・テクノリジィ社から直接病院に納入されるものではなく、ナノ・テクノロジィ社はプロバイダへシステムを供給し、プロバイダからネットワークを通じて各クリニックや市中の病院へ提供された。

こうやってサービス全体のコストを下げ、広く人々が利用できるサービスとしてのビジネス・モデルを確立した。


値段が劇的に下がった事と保険が適用できるという事が起爆剤となり、システムは広く人々に利用されていった。結果、システムに有効性と利用者の拡大により不眠や躁鬱などの患者は激減する事になり。24時間のサービス・システム社会は、安定的にサービス提供をしていくように思えた。

しかし、患者数が激減すると需要と供給のバランスが崩れていった。U-3利用頻度が減り、結果として売り上げが減少した。しかし、プロバイダと病院はU-3の導入時や維持コストをかけたために、費用どうにか捻出する必要があった。


ナノ・テクノロジィ社もU-3の段階において開発コストが膨れ上がったため、プロバイダや病院からのロイヤリティを減らすわけにはいかないという循環的なジレンマに陥っていた。

U-3の実用段階においてもシステムは医療用の機器として扱われていたため、公共機関から認可を得た特定のプロバイダのみがこのサービスを提供できるに留まっていた。


プロバイダは、組織的にナノ・ドリーム・テクノロジィ社にNDT U-3へアトラクション・コアと呼ばれる新しいフィーチャの追加を訴えた。

アトラクションン・コアは、疾病患者だけでなく一般の人もこの機器を利用できるように娯楽用のフィーチャを追加し、睡眠治療の目的としてU-3実装された夢を生成するジェネレーション・コアに追加されるサブ・システムだった。


この提案は、プロバイダと同様な理由で売上げが低迷していたナノ・ドリーム・テクノロジィ社にとっても会社の存続をかけた期待の持てるプロジェクト案の様に考えられた。

プロバイダとナノ社との利害は完全一致し、ナノ・ドリーム・テクノロジィ社は開発を決定し、出来上がったのがNDT U-4だった。



少し内容が変更されました。ここまでは過去ログをお読みくださいね。テレビ