「Beyond Atras Mountens」
霧の切れ目から僅かに見える森は、家の裏窓から見える森とはっきりと違っ ていた。スキポールから数時間するとジブラルタルにかかる、地図でみたことのある 同じ地形が眼下に広がる。
地中海と大西洋の境界であり、ヨーロッパとアフリ カの境界であり、キリスト教とイスラム教の境界である。カサまでも う1時間たらずだ。タンジェ、ラバトを過ぎれば迷路のようなカスバ、何処までも砂の 続くサハラのエッジに立てるはずだ。
カサについたのは11時、モハメド5世のロビーでも祈りをかかさない従順 なイスラム教徒と人のボールペンをかすめとる入国管理管の役人とのモラルの ギャップに矛盾を抱きつつターミナルまでの長いコンコースを歩き列車に乗る。
カサのメインターミナルまで30分列車は赤い殺伐とした風景の中を通り過 ぎるイメージしていたロマンチックなカサとは全く違う世界だった。列車はス ラムを抜けると廃屋となった工場のようなターミナルに到着する。
ター ミナルの外は、喧騒としたアラブの世界が広がっているのだ。駅の脇に はすぐ旧メディナが広がりその先にはスークがある。駅の改札から50メート ルも歩かないうちに物売りに囲まれる。
カタシはこんなメディナの入り口のゲートで僕を待っていた。眼鏡の奥の少 し愛嬌のある瞳は昔と全く変わっていない。彼は、ロンドンから一足先にカサ にはいっていた。
数年ぶりの再会だが肩を抱き合ったりしない。ここはアラブ 世界だからだ。♂は皆握手を交わし、ゲンコツで胸をたたくのである。タカシと最後に会ったのはダブリンのうすぎたないパブでギネスを飲んだ時だ。
人懐こい表情はあの頃かあ何も変わっていない。タカシは、
「砂漠はどこだ?」
という僕の質問を鼻で笑うと、旧メディナの中へ僕を導いた。 メディナの中の狭い路地にはスークがあり、そこでは日用品をはじめ、絨毯銀食 器、食料品が雑多に売られていた。
暗い家と家の間の通路の上少しだけ見える 空には、ハッサン2世の塔が聳える。
「込み入った通路を歩いてもあれを目印に歩 けば迷う事がない」
と自分に言い聞かせながら言葉数の妙に少ないタカシの後に続く。 しかし10分も歩くともう自分が何処にいるのか解らなくなっていた。
「と にかくここはアフリカだ。」
自分に言った。そうだ、確かにアフリカ大陸に立っている。
「HOTEL REINA」
タカ シは立ち止まっておおげさに腕を振り上げて
「ここだ。」
告げた。35DH、アラビア式共同トイ レ、シャワー無し、内装は決して清潔とはいえないがベランダから見るカサの 港とメディナのコントラストはなんとも言えない。
「おい、まじかよ」
あえて言わなかった。11時に空港に着き、入管手続き、列車で30分そして
「高級ホテルへ」
の チェックイン時刻は既に1時を過ぎていた。
「タカシ、飯は?」
荷物をアンパ ックしながら僕はタカシに尋ねた。ベランダから港の方向を眺めていたタカシ は目線を僕の方に移すと、私に笑いかけ……
「ラ・マ・ダ・ン」
とはき捨てるように言った。
ジブラルタルの上空から見た海峡は、地図の通りです。モロッコとラマダンには沢山の思い出があります。

