ノープランサイコー | weblog -α-

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なんとな~く  思いつきで  好き勝手に  (=゚ρ゚=) ボヘー  っとやってます。


「明日ね。」 と言った後、三都子はほんの少しだけ振り返って手を上げた。
幾ら思い返してみても、その光景ばかりが瞼の裏を泳ぐ。
後ろめたい気持ちになっている僕に気付いたのか、華子が妙に話し掛けてくる。
得も言われぬ不安感を打ち消す様に、取り繕った明るめの話題ばかり振ってくる。
遅めの昼食を半分ほど平らげた時、インターホンのベルが鳴った。

彼はいかにもといった雰囲気を醸し出しつつ、低姿勢に何度も頭を下げて見せた。
如月と名乗ったその中年刑事は、御丁寧にも名刺まで差し出してよこした。
「九条さん、早速ですが幾つか訊かせて頂いても?」
形式的な質問がしばらく続き、本題である三都子の件についても細かく訊かれた。
「心当たりと言われても・・・特には。 そもそも、会ったのすら数年振りだったし、それもたまたまですよ。 向こうは仕事中で忙しかった様だし、別れてから今までどうしてたとか、そんな話をする余裕なんてありませんでしたから。」
「三年ほど前で間違いありませんか? その、別れた時期というのは。」
死んだ元彼女との事を、こうも根掘り葉掘り訊かれるとは思ってもいなかった。
既に思い出となっている日々を詳細に知る事がどう事件に関係するのかは解らなかったが、僕は訊かれるままを全て正直に話した。
「正確に何時頃ですかね? その再会した時間というのは。」
「そうですね・・・駅前のからくり時計が動いたすぐ後だったんで、13時丁度ぐらいだと思います。 話した時間は5分足らずでしたけど、久々にゆっくり話したいって、次の日に待ち合わせの約束をしたんです。」
確かめる様に手帳をパラパラとめくって指でなぞると、如月刑事はうんうんと頷いて顔を上げた。
「ちなみに、その時はどちらもお一人で? 連れの方とかいらっしゃいました?」
ついに出番が回ってきたとばかり、食卓の椅子で静かにしていた華子が後ろから唐突に答え始めた。
「手荷物係で私も一緒でした。 兄と付き合ってる頃から三都子さんとは面識があったんで、私の方が久々に会えて喜んでたぐらいで。 だから話を聞いた時は凄くびっくりして・・・。」
特別、華子と三都子が仲良しだった印象はなかったが、確かに当時は僕が席を外す様な事があっても、二人で女同士の会話を楽しんでいる様子だった。
「なんで別れちゃったの?」 と華子から一度だけ訊かれたりもしたが、それ以上は何も訊いて来なかったし、別れて以降、僕も三都子の事については、華子の前では何も語らなかった。
憎んだり恨んだりという様な別れ方ではなく、どちらかと言えば円満な別れだったが、全く口論すらせずにそうなった訳でもない。
「ぬるま湯の様な付き合い」 と三都子は例えたが、今思えば確かにそうだったのかも知れない。

「ねぇ、兄貴。 三都子さんとやり直したいと思った? あんなに綺麗だったら、正直惚れ直したでしょ、あの時会って。」
望まなかったと言えば嘘になる。
初恋の人と再会したみたいな衝撃を覚え、動揺して挨拶の言葉も出なかったのは僕の方だ。
酷い事は何もしていないのに、何故だか 「ゴメン」 と言いかけた。
不自然な笑みになっていたはずだが、三都子はきっとそれに気付かないフリをしていてくれたんだろう。
へっちゃらであの頃の様に接していたのは華子だけで、当事者の僕らは二人して妙な緊張から逃れられずにいた。
本当はゆっくり話したいと思いながら、それを言い出すのが正しいのかどうか考えていた。
「また後で会える? 今日は仕事で忙しくて・・・。 えっと・・・明日なら時間あるんだけど。」
耳を疑う様な一言だった。
向こうからそんな風に言って来るとは思ってもおらず、二つ返事で快諾した。
目の前の再会と約束の光景に、華子がからかう様な笑みを見せた。
「もう行かなきゃ。」 と呟いた後、三都子は 「明日ね。」 と言いながら僕と目を合わせた。
やがて三都子の後姿が人ゴミに紛れて消え、口が半開きのままの僕が反射するコーヒーショップのガラスに映し出されると、半笑いのままの華子が 「ドラマ展開ですね~?」 とからかって言った。

「夕飯もロクに食べない気?」 と、ほとんど手付かずのオムレツに気付いて華子が鼻を鳴らした。
夜になっても華子は帰る素振りを見せず、当たり前の様に面倒を見てくれていた。
楽と言えば楽だが、それほど心配されているのかと思うと、甘えてばかりもいられない。
「料理は明日ちゃんと食べるから、もう帰れよ、華子。 俺は大丈夫だから。」
「・・・留守電聞いた? 兄貴。 三都子さんからの留守電。」 と、華子は少し言い辛そうに訊いてきた。
連絡が来るであろう事は解っていた。
ロクに理由も告げず、待ち合わせをキャンセルしたのは申し訳なく思っていたから、もし愛想を尽かされていなければ・・・三都子から連絡をしてくれたのならば、今度は何があっても三都子との語らいを優先させるつもりでいた。
「・・・私。 三都子。 久しぶりに会えたと思ったら、久しぶりにドタキャンされちゃったね。 急な用事なら仕方無いけど、言い訳ぐらいちゃんとして欲しかったな。 ホントはね・・・来られなくなった理由、私、知ってるんだ。 あの子・・・まだ居るんでしょ。」
・・・あの子?
「いいの。 別にあの頃みたいに責めるつもりないから。 でもね、やっぱり心配なんだよ。 ずっと引きずって・・・自分の責任だって思い詰めてるの解ってたから。」
浮気か何かを疑っている様な口振りだが、僕には全く身に覚えがなく、何の事を言っているのかもよく解らない。
「駅で見かけて、様子を見ながら少し尾行したの。 あの頃のままなのかどうか知りたくて。」
「おかしくないか? 何の話してるんだ、三都子は。 ちょっと変だよな?」
確認を取ろうとしたが、さっきまでソファーに居たはずの華子の姿が無かった。
「キッチンか?」 と声を掛けると、案の定だった様で何やらガサゴソと音が聞こえた。
「苦しんでるんだとしたら、助けられるのは私だけ。 そうでしょ? だって・・・」
気配がした。
「こんなのズルいよね。 今さら助けるとか・・・三年も兄貴の事放っといて。」
三年前、確かに三都子とは別れた。
しかし、幾ら思い出そうとしても、どうして別れたのかが思い出せない。
「ズルいよ、三都子さん。 兄貴だけに責任押し付けて逃げたクセに。 そのせいで兄貴がどんな辛い思いしたのか解ってないよ。」
背中から胸の辺りへと、華子の細い腕が回ってきた。
「そうでしょ? 兄貴だってそう思うから・・・」

「他殺? いやぁ、状況的には典型的な自殺じゃないかと・・・。」
「違う! そんな、自殺なんてなんでする必要があるんですか!」
「辛いお気持ちはお察ししますけどもねぇ・・・他殺を示す証拠は出なかったんですよ。」

「手掛かりはまだ見つからないんですか? 絶対に何かあるはずなんです!」
「と言われましてもねぇ・・・こちらでは自殺で処理されてしまうと、もう捜査らしい捜査は出来ないんですよ。 よっぽどの事でも無いと・・・例えば、有力な証拠が出るとかね。」

「何考えてるの!? あなた、自分で自分の首絞める様な事してるのよ!?」
「肉親が心配しないで誰が心配するって言うんだ! 当たり前だろ!」

ヌルっとした感触に足を滑らせた。
眠っている如月刑事がイタズラをしたらしい。
「飲み過ぎですよ。刑事さん。」

華子はソファーで本を読んでいる。
酷く落ち込んでいたのが嘘だったかの様に上機嫌で。
不機嫌なままなのは三都子の方で、まだあのドタキャンの事を根に持っているらしい。
「屁理屈ばっかり!」 と僕を責めるが、言い訳ぐらいしろと言ったのは自分の方だと忘れているのだろうか。

「包丁、どこにあるか知らない?」 と華子がキッチンで大声を上げる。
「まだ見つからないの?」
三都子がそう言って立ち上がり、探すのを手伝おうとキッチンへ向かった。
「向こうにあるよ。 ゴメン、戻しとくの忘れてた。」
目配せで浴室を示すと、キッチンの二人が顔を見合わせて笑う。
「もういいよ、兄貴。 私、気にしてないから。」
「やっぱりあなただったのね。 まったくもう。」

夕食が済んだ頃、インターホンのベルが鳴った。
「夜更けにすいません。 警察の者ですが。」
来訪者たちは土足で上がり込むと、大声で何かを喚いていた。
理由も告げずに僕らは拘束され、離れ離れになった。

留守の間、泥棒にでも入られたら困るなと思ったが、考えてみれば刑事さんが居るんだった。
連絡だけしておけば、きっと戻るまで守っていてくれるだろう。

「録画はもう始まってる? じゃあもう始めて平気? え~と・・・ご自分のお名前から教えて頂けますか?」
「私ですか? 九条です。 九条華子。」





ハィ、という訳で、唐突ながら思いつきで書き下ろしてみた小説です。
っていうか、あいうえお小説です。
「あ」 から始まって、実質的に書き出しには向いていない 「ゐ・ゑ・を・ん」 を除いた44音を行頭に使って書く遊びでした。
あいうえお小説って事以外は全くノープランで書き始めちゃったもんで、まさかこんなサイコな話になるとは思いもよらずw、「キモいわ!」 とか 「怖いわ!」 ってなった人が居たらゴメンナサイ。
途中でこりゃホラーだな~と思ってたのに、なんかイカレた人の話にシフトしてっちゃいました。
まぁ、内容よりもあいうえお順を重視してたらこうなった・・・ってだけの話なんだけどもね。
終盤なんか、「わ」 で終わらせようとしてかなり無理に引っ張ってるし。
ってか、展開が有り触れててつまらんよね。
つまらんから途中で一気にオチの方向性変えようと思ったんだけど、序盤から読み返したら、もはや手遅れだと気付いたんでやめました。
やはり、物語はプロットありきですね、えぇ。