羽生結弦さん『「理想」を追い求めて』プロ転向2年インタビュー第1回

  プロ転向を表明してから19日で2年を迎えたフィギュアスケートの羽生結弦さん(29)がインタビューに応じた。プロ活動の2年間と今とこれから。プログラムとの運命の出会い、追い求める『理想』について存分に語った。アスリートとして、表現者として、進化を続ける羽生さんの言葉を、3日連続で掲載する。第2回と最終回は単独でのインタビュー

 

  仙台のスタジオに、羽生さんは颯爽(さっそう)と現れた。到着した途端に『お願いします』とインタビューをスタートできる頭の切り替え、回転の速さは、相変わらず。黒のジャージも、いつもながらよく似合っていた

 

『プロになって1年目は正直手探り状態というか、これをしたらいいのかな、あれをしたらいいのかな、何をしたらいいのかなっていうのを、ずっと考えながら過ぎていった1年でした。(2年目の)この1年は表現したいことであったりとか、自分がプロになって、どういうことをしたいのかっていうことが、明確に分かってきた1年になったのかなと思っています』

 

  時には考え込み、言葉を選びつつ、終始笑みを絶やさない。この2年を振り返る表情に、プロ活動の充実が見て取れた

 

  始まりはワンマンショー『プロローグ』。スケーター史上初の単独東京ドーム公演『GIFT』は2時間半を一人で滑り切った。『GIFT』に続くアイスストーリー『RE_PRAY』では、初の全国ツアーに挑戦

 

『2年目は「RE‗PRAY」で、完全にアイスストーリーというものが形作られたというか。この物語にこういうピースが存在していて、こういう物語が伝えたいんですよっていうのが、ちゃんとでき上がったなっていうのが、2年目の大きなところだったとは思うんですよね』

 

  自ら物語を書き、制作総指揮も務め、一人で演じる『アイスストーリー』。『RE_PRAY』では、ゲームとスケートが融合した新たなエンターテイメントを完成させた

 

『いろんなプログラムを振り付けしていく時もそうなんですけど、基本的には根本に「生きる」ということが存在しているのかなっていうことと、その「生きる」ことに対しての「祈り」みたいなものが常に存在しているのが、自分が表現したいことの根幹にあるのかなっていうのは思います』

 

  プロスケーターの概念を変えてみせた。4回転ジャンプを跳び、さまざまなジャンルのプログラムを演じ分ける。アスリートとして、表現者としての進化は、3年目のシーズンも続く

 

『やっと自分がやりたいことの基盤ができ上がったので、その延長上で、どういうふうに自分が、より表現面でスキルアップできるか。伝えるということには、やはり競技時代からずっと言っていた「技術」というものが基礎になっていないとレベルアップはできないと思うので、技術面的にも体力面的にも強化していくっていうような形が、3年目になるのかなという感じはしています』

 

  12月に30歳の誕生日を迎える。10代の頃に思い描いた未来とは、異なる今を歩んでいるという。2018年平昌五輪後にプロ転向し、20代でスケートをやめているはずだった

 

『思い描いていたものとは体力のつき方も技術のつき方も全然違いますし、「ああ、こんなにもまだまだやれるんだな」っていう実感と、未来に向けての可能性をすごく感じています。自分が思ったよりも、「人間ってまだまだやれるんだな」っていうのを、今、感じています』

 

  平昌で五輪連覇、北京で3度目の五輪。プロ転向。とてつでもなく濃い20代を過ごした。30代はどんな時間になるのだろう。『特に…何も変わらないですね』と首を傾けながら続けた

 

『自分というものをまた大切にしながら。でも、見せるということ、スケートと向き合うということが、やっぱり僕にとっての幸せの大きな部分を占めていると思うので。皆さんにとって、自分がある意味30年間生きている意味というか、存在理由みたいなものを常に自分自身に持ちながら。ファンの人たちが見てくれるからとか、僕にはスケートしかないからとか、そういうものだけじゃなくて、自分自身の中に常に、生きる芯みたいなものを、より明確につくっていきたい30代だとは思っています』

 

  魂を込めた滑り。色紙に記した『「理想」を追い求めて』。プロスケーター羽生結弦のストーリーは、まだ始まったばかりだ