羽生結弦、負傷を乗り越え滑り切った『ファンタジー・オン・アイス2024』アダム・シャオ・イム・ファは革新的な演技を披露

羽生の新プログラムはセルフコレオ

  5月24日に開幕した『ファンタジー・オン・アイス2024』幕張公演のオープニング、大歓声の中をいつものように全力で滑り出てきた羽生結弦の額には、絆創膏が貼られていた。21日、プログラムの練習中に氷に額をぶつけるアクシデントがあり、約2.5センチ縫ったという

 

  事情を知るファンが心配しながら見守る中、羽生は不安を払拭する滑りを展開する。第1部では、3月に行われた『notte stellata2024』で初披露した『Danny Boy』(デイビット・ウィルソン振付)を再演。羽生の真骨頂といえる美しいピアノ曲を、白い衣装をなびかせて優雅に滑った。『notte stellata2024』初回公演後に『コンセプトは″希望”です』と説明していた通り、今公演でも観る者に希望を届けた

 

  第2部では、T.M.Revolution/西川貴教が歌うTVアニメ『機動戦士ガンダムSEED』の挿入歌『ミーティア』に乗り、セルフコレオによる新プログラムを披露した。アーティストとスケーターのコラボレーションは、『ファンタジー・オン・アイス』ならではのみどころだといえる。公式プログラムのインタビューで『僕はやっぱり西川さんの歌声に合わせた滑り方をしたい』と語っている羽生は、鋭角的な動きで力強いボールを表現。切なさが漂う歌詞を伸びやかな滑りで体現し、トリプルアクセルも決めてみせた。羽生が新たなプログラムを披露する度に彼に合った選曲だと感じさせるのは、どんな曲でも深く理解し表現する力を持っていることの証明だろう

 

  続くフィナーレで、T.M.Revolution/西川貴教の代表曲『HIGH PURESSURE』に合わせて羽生がみせた切れ味鋭いステップは、プロ転向後に積んできた、陸のダンスを氷上で再現する努力の結晶にみえた。常に全力で練習に取り組みつつ、たくさんのアイスショーで演技を披露し続けるというプロならではの厳しい道程を、羽生は敢然と歩み続ける

 

身体能力に表現力も加わったシャオ・イム・ファ

  国内外のトップスケーターが共演する華やかなショーの中でも鮮烈な印象を残したのは、『ファンタジー・オン・アイス』初出演となるアダム・シャオ・イム・ファ(フランス)だった。世界選手権銅メダリストの力を示す圧倒的な滑りで、観客を魅了した

 

  第1部で滑ったのは、今季の世界選手権でショート19位から3位まで駆け上がる驚異的な追い上げをみせたフリー『Departure/The Quality ofMercy/Mercy/Refuge』。深みのある音楽を、力強く伸びるスケーティングと高い身体能力で表現していく。世界選手権では減点を覚悟で実施したバックフリップを決め、ブノワ・リショーによる独創的な振付を滑り切った。シャオ・イム・ファの体から発するエネルギーが、幕張イベントホールいっぱいに広がっていくようなひとときだった

 

  第2部では、新しいショーナンバー(ブノワ・リショー振付)を披露した。作曲家でもあるセドリック・トゥールコーチによるオリジナル曲『Seneses+Story of a March Day』に乗り、画家・ゴッホの生涯を描くプログラムだ。プログラムの前半では創作活動の苦しみを感じさせるような所作をみせ、いったんリンクから出て衣装を替え、再び登場。後半は、美しい絵を連想させるスケーティングで魅せた。見たことがないような体の動かし方が印象的で、コンテンポラリーダンスさながらに観る者の心に突き刺さる革新的な演目だった。高い身体能力に加え、ブノワ・リショーの下で芸術的な才能を開花させたシャオ・イム・ファは、来季も世界を牽引し続けそうだ

 

  今年も幕張で開幕した『ファンタジー・オン・アイス』。プロの道を究める羽生、アマチュアの世界を牽引するイム・シャオ・ファをはじめ、すべてのスケーターとアーティストが渾身のパフォーマンスを届けた