張本美和と伊藤美誠の『明暗』はなぜ分かれた?女子卓球″最後の1枠”争いはこうして決着した…明らかになった『選考レース』の問題点

  2月5日、日本卓球協会はパリ五輪の男女日本代表選手を発表した

 

  すでにシングルスの代表となっていた男女2名に加え、団体戦メンバーの選考、特に女子の選考には大きな関心が集まっていたが、シングルスの早田ひな、平野美宇に続き張本美和を選出。伊藤美誠のリオデジャネイロ、東京に続く3大会連続代表はならなかった

 

『ほんとうに悩んで悩みました』

 

  女子代表の渡辺武弘監督はこう語っている。発表されるまでさまざまな議論が生まれるほど両者は拮抗していた

 

選考の核は『打倒中国の可能性』

  選考ポイントでは3位が伊藤、4位が張本。世界ランキングでは伊藤が日本勢2番手の10位、張本が日本勢3番手の16位(1月30日現在)。伊藤には数々の舞台をこなしてきた経験もある

 

  一方の張本は、五輪選考レースがスタートした2022年の選考会での最高成績はベスト8が一度、それ以外はベスト16であったが2023年になると11月の全農カップ大阪大会で早田を決勝で破り優勝したのをはじめ準優勝も2度記録と、成績の向上は著しかった。また国際大会でも実績を積み重ね、成長曲線を描いてきた。15歳という年齢からしても、ここからパリ五輪までの期間の伸びしろにも期待が持てる

 

  それぞれに強みとする要素があった

 

  ただ、選考ポイントの上位2名がそのまま選ばれるシングルスと異なり、団体戦メンバーを選考する観点の核となるのは、長年追い求めてきた打倒中国の可能性だ。団体戦に選ばれた選手も、5試合中2試合は出場することにある。そして5試合のうち1試合はダブルスがあることも考慮される。その点が最終的に選考を決定づけることになった

 

『世代交代の意味でも張本を』という意見は…

 『張本選手はシングルスもダブルスも活躍できます。昨年1年間、国際大会に帯同して、戦いぶりや上位選手との戦績を見ながら、張本選手が一番ふさわしいと思いました』(渡辺監督)

 

  張本は昨年9月のアジア大会女子団体決勝で世界ランキング当時4位の王曼昱から第1ゲームを奪い、木原美悠とともに臨んだダブルスでは準々決勝で世界ランキング1位の孫穎莎、王曼昱のペアから金星をあげた

 

  また、12月のWTTファイナルズでは、孫穎莎に2-3と好勝負を演じた。これら中国勢との試合などを踏まえ、『団体戦でシングルスもダブルスも活躍できる選手』であることから、張本が選出されるに至った

 

  選考に注目が集まる中、『世代交代の意味でも張本を』という意見も時折耳にした。早田、平野、伊藤は同世代であり、のちのちを考えれば若い世代を1人入れたほうが、という観点だ。いたずらに世代交代を前面に押し出すことは与しないが、そういう観点を除いても、張本の成長ぶりは選ばれるに十分値する

 

伊藤美誠はなぜ″3大会連続の五輪”を逃したか?

  対する伊藤は、立ち位置の違いも大きかったのではないか

 

  東京五輪では団体戦代表だった平野美宇には、大会を終えて。次はシングルスで切符をつかむというモチベーションがあり、東京五輪で補欠だった早田は当然、次こそオリンピックへという気持ちがあった。張本も含め、すぐさま次へと視線を変えられる、追う立場にあった

 

  伊藤の場合、東京五輪ではエースとして期待される中、金、銀、銅と3つの色のメダルを獲得し、大きな成果をあげて大会を終えた。どの競技の選手でも、簡単に次へとは目を向けられない状況があり、伊藤の立ち位置は、最初から追う立場にいた選手たちと異なる

 

  加えて、東京五輪から大きな間隔のない中でスタートし、しかも国内での選考会やTリーグも選考ポイントの対象となることで過密となったスケジュールがあった

 

成長度合いをとらえきれない『選考レースの問題点』

  拮抗する代表選考の中で両者の明暗が分かれた要素には、急成長を描いてきた張本に対し、伊藤は苦しい内容を強いられる試合がしばしば見られたことも否めない。対戦相手から研究される中、それに対応してプレーを変えていくことがなかなかできなかった面があった。気持ちを奮い立たせる時間も少なかったうえに、先に記したように自身のプレースタイルを変化させるゆとりもなかった

 

  代表選考が終わった今だからこそ、パリ後を見据え、選考のスケジュールや内容に関してのレビューも必要だろう。2年間続くスケジュールと選考対象大会の数は、伊藤に限らず大きな負担を選手に強いた。また、張本のように急成長してきた選手をとらえきれない感もある。伊藤か、張本か、と団体戦代表を巡る選考となったが、3枠目を争っているとという位置におさまらないほど、張本の成長度合いは大きかったとも言える

 

  いずれにせよ、代表選考は終わった

 

  早田ひな、平野美宇で臨むシングルス、そこに張本が加わる団体戦。目標とする打倒中国へ向けて、パリへと進んでいく