高橋大輔の18年が詰まった『ロクサーヌのタンゴ』親友・小林宏一と共演、経験を反映した″渋い”滑り

初コラボレーションに高橋は″ワクワク”

  37歳の高橋大輔がプリンスアイスワールド東京公演で滑った2024年の『ロクサーヌのタンゴ』は、プロスケーターとしての味わいを醸し出すプログラムに成熟されていた。また、プリンスアイスワールドチームとの初コラボレーションナンバー『Welcome Moulin Rouge Medley』での高橋からは、プロとしては先達である親友・小林宏一への敬意も感じられた

 

  今季のプリンスアイスワールド『A NEW PROGRESS ~BROADWAY CLASSICS~』は『ミュージカル・オン・アイス』と銘打ち、ブロードウェイミュージカルの名曲に乗って滑るナンバーで構成されている。神奈川フィルハーモニー管弦楽団の演奏とミュージカル俳優の歌唱による音源に加え、日替わりでミュージカル俳優が生の歌声を披露するアイスショーだ

 

  一方、プリンスアイスワールド東京公演で高橋が披露した『ロクサーヌのタンゴ』は、シングルスケーターとして2005-06シーズンに滑ったショートプログラムである。また個人的には、2012年1月に代々木第一体育館で開催されたアイスショー『スターズ・オン・アイス』で滑った圧倒的な『ロクサーヌのタンゴ』の記憶が戦列に残る。情感あふれる旋律を伸びやかなスケーティングで表現し、会場には高橋にしか創り出せない濃密な世界が広がっていた

 

『ロクサーヌのタンゴ』は、ブロードウェイミュージカルにもなった映画『ムーラン・ルージュ』の楽曲だ。プリンスアイスワールドのホームページによると、昨年の横浜・佐賀公演にゲストとして出演していた高橋が、プリンスアイスワールドチームとのコラボレーションを希望した

 

  今回の東京公演を前にして、その高橋の要望を受けた演出の菅野こうめいさんが考えていたところ、プリンスアイスワールドのスケーティングディレクターを務める佐藤紀子さんが、高橋の『ロクサーヌのタンゴ』を見たいと口にしたという

 

  ショーには当初から『ムーラン・ルージュ』のナンバーが組み込まれていた。プリンスアイスワールドチームが第1部のラストに滑る『Welcome Moulin Rouge Medley』である

 

  思い起こせば、確かに昨年の横浜公演出演後、高橋は『なんなら、めちゃくちゃ出たいなって』と『ムーラン・ルージュ』の演目に対する興味を語っていた。また高橋は、小林へのリスペクトを示すコメントも口にしていた

 

『キャプテンの宏一くんも、台詞がありながら、歌いながらの…『いいなあ』って思いながら』

 

『彼も同期なので、プリンスアイスワールドに入ってからの彼のそういった姿を見ると「いろんな経験をして成長しているんだな」というのは改めて感じて。「負けないようにしたいな」と思いました』

 

共演者のパワーを感じ『同じ楽曲でも全然違う』

  そんな経緯を経て、1月19日に開幕した東京公演では、『Welcome Moulin Rouge Medley』の一部として高橋が『ロクサーヌのタンゴ』を滑り、プリンスアイスワールドチームともコラボレーションする構成が初めて披露されることになった

 

  公演の約1週間前となる1月12日には、KOSE新横浜スケートセンターでコラボレーションナンバーの練習が公開された。プリンスアイスワールドチームの男性ラインキャプテン・小林宏一と高橋は、アマチュアスケーターとして同期だった。小学6年生の頃から試合で共に戦ってきた幼なじみの2人は、現在に至るまで親しく交流しているという。高橋は、小林と一緒に臨んだ公開練習後の囲み取材で、コラボレーションナンバーへの思いを語った

 

『僕はずっと(2006~)プリンスアイスワールドに単にゲストとして出演させていただいて、コラボレーションというのは今回初めてなので、そこに対してワクワクしています。今回のナンバーを外から見ていて、「自分も出てみたいな」と純粋に思っていたところにこういうお話をいただいて、本当にすごく嬉しく思います』

 

  見どころを問われると、高橋は『全体的に見どころではあると思うのですが』と前置きしつつ、小林と絡む部分について言及している

 

『今回宏一と、短いのですが絡みがあって、そこからメンズのタンゴ風みたいな、初めての感じで。僕も基本アイスダンスでは男性役をしているのですが、(今回のコラボナンバーでは)ポジションでいうとちょっと女性のポジションっぽい気がするので、そこは見ている方には新鮮なのかなと思います

 

  あと後半の盛り上がるところは、宏一の子分的な感じでやろうかなとも思っているので。僕もああいうテンションが高いというのは(今まで)やってきていないと思うので、そこらへんも楽しいのかなと』

 

  東京公演初日となる1月19日、シックな黒の衣装で登場し、『ロクサーヌのタンゴ』を滑り始めた高橋は、本番でしか見せないオーラを放っていた。試合でこのプログラムを滑っていた18歳の頃は『とにかくセクシーに″エロく”なりたい気持ちが強くて、とりあえずそれだけを考えてやっていた』という高橋だが、37歳のプロスケーターとなった今は、一味違う洗練された深みのあるスケートを披露した。シングル時代から唯一無二だったエッジワークはアイスダンサーとしての鍛錬でさらに磨かれ、人生経験による渋味も加わって、楽曲に込められた哀愁を存分に体現する滑りだった

 

  公開練習の際、本番はジャンプに挑戦することを明らかにしていた高橋は、言葉通り、ダブルアクセルを着氷させている。現役時代に積んだ修練に加え、エンターティナーとしての経験を生かして滑る、絶品の『ロクサーヌのタンゴ』だった

 

  続く『Welcome Moulin Rouge Medley』での高橋は、チームをリードする小林とお揃いの赤のジャケットを羽織り、共に会場を盛り上げる。その姿からは、プロスケーターとしてプリンスアイスワールドチームで滑り続け、15年目を迎える幼馴染をサポートしたいという高橋の思いが感じられた

 

  公演後メディアに対応した高橋は、プリンスアイスワールドチームと共に滑った『ロクサーヌのタンゴ』を、充実感を漂わせながら振り返った

 

『僕自身ソロで滑っていたナンバーでしたので、その時は本当にそれこそ状況を思い描きながら滑っていた。今回は前半入った時に女性と絡んだり、途中で男性と絡んだり、最後自分がバッと手を出した時に男性がバッと出てきてくれたり、本当にすごく新鮮で。より一層パワーを感じられながら滑ることができたので、同じ楽曲でも全然違うものに感じた今回でした。すごく楽しかったです』

 

  シングルスケーター・高橋大輔の名プログラム『ロクサーヌのタンゴ』は、18年を経た今、親友と共に新たな魅力を発揮するナンバーとしてよみがえった