『歴史を変えるチームだと確信があります』村元哉中&高橋大輔のコーチが語る、斬新な『ソーラン節』を採用したワケ<独占取材>

 9月3日から米フロリダ州で開催されたUSFSA(アメリカフィギュアスケート協会)認定の競技会『アニュアル・レイバー・デイ・インビテーショナル』に村元哉中&高橋大輔が出場。リズムダンス(RD)、フリーダンスでいずれも1位を保ち、会場内の関係者たちから大きな歓声を受けた

 

 特に選曲が話題となった新RD『ソーラン節』を試合で初披露。従来の民謡のイメージを覆す、衝撃的なまでに斬新な作品だ

 

ズエワコーチ『彼らは特別な存在なので』

 音楽は日本人とフランス人の両親を持つアーティスト、マイア・バルーによる演奏で、ワールドミュージックテイストのアレンジ。白黒の衣装を身に着けて、コンテンポラリーダンスを基調とした振付である

 

 今季のRDの課題のパターンダンスはミッドナイトブルースで、膝の柔らかさやエッジの深さなどが採点の鍵となる。前半はバルーの個性的な歌声にのって深いエッジワークを披露し、後半ではパーカッションと琴の音色にのってロテーショナルリフト、トゥイズル、ミッドラインステップなどで盛り上げた

 

 筆者の独占電話インタビューに応じたマリナ・ズエワコーチは、まず選曲の理由をこう説明した

 

 『日本的な音楽を使うというのは私のアイディアでした。彼らは特別な存在なので、今季は他のチームにできない作品を滑って欲しかったためです。多くの音楽をリサーチして、実際にこの曲を見つけてきたのはカナとダイスケでした。日本の伝統を基調としながらも、独創性のある洗練された作品に仕上がったと思います』

 

パワーアップしたフリー『ラ・バヤデール』

 翌日に行われたフリーは、昨シーズンの『ラ・バヤデール』だった。有名なクラシックバレエの音楽を使用したプログラムだが、昨年度に比べて一つ一つの動きに磨きがかかり、リフトの難易度などがアップグレードされている

 

 『昨シーズン、多くのジャッジなど関係者から連絡が来て、このプログラムはもっと世界に見せなくてはならない作品なので、ぜひ継続して欲しいと嘆願してきたのです』とズエワコーチ

 

 『ダイスケは世界中から愛されているスケーターなので、多くの関係者がカナとのパートナーシップに注目し、彼らの成長に期待しています。みんな、彼らに良い結果を残して欲しいと願っている。私のところには技術スペシャリストなどから多くのアドバイスがもたらされ、それらに従って内容の密度を上げていきました』

 

 リフトやダンススピンの難易度が上がったことに加え、高橋の安定したサポートが村元の身体の動きの美しさ、華やかさを引き立て、素晴らしいダンスの作品に仕上がっていた

 

『ダイスケは肩幅が増してウエストが細くなった』

 高橋と村元がズエワコーチが拠点とするフロリダでトレーニングを開始したのは、2020年2月のこと。だが4月にはパンデミックで急遽日本に帰国せざるを得なくなった。アイスダンサーとしての初戦は、パンデミック下で国内大会様式で開催されたNHK杯。ここで3位、2020年全日本選手権では2位という結果だった

 

 『昨シーズンは、順位のことは全く期待していなかったんです』と、ズエワ・コーチは説明する

 

 『ダイスケは素晴らしい男子シングルのチャンピオンでした。でもシングルとアイスダンスでは要求される技も、体形も違う。単に一人で滑っていたのが二人になる、という話ではないんです』

 

 昨年末の全日本選手権終了後、1月に再び渡米してフロリダでのトレーニングを再開した

 

 『私の生徒たちがトレーニングをする特別なジムがあるのですが、ダイスケはカナと一緒に週3日間そこに通っています。主にスタミナをつけるためです。ダイスケは以前より肩幅が増してウエストが細くなったでしょう。とても美しいダンサーの体形です』

 

昨季の世界選手権なら3位に入賞できる高スコア

 この大会で二人が獲得したRD84.74、FD129.70.ISU非公認のローカルな競技会とはいえ、総合214.44点という数値は昨シーズンのストックホルム世界選手権なら3位に入賞できる高スコア

 

 ズエワ・コーチはこの結果をどう見るのか

 

 『私は彼らの能力を毎日見ているので、驚きはありませんでした。フリーでは音楽の解釈で10点満点を出したジャッジもいましたが、私から見ても、これ以上完璧なタイミングで踊れないという滑りだった。前から言っていますが、彼らは世界選手権の表彰台に上がれる能力がある選手。カナはすでに(前のパートナー、クリス・リードと)四大陸のメダルを手にしています。スケーティング技術が高いだけでなく、二人とも真のダンサーですから』

 

 初戦だった2020年のNHK杯のスコアに比べると、RDで20.59、フリーダンスでは実に33.60ポイントも進歩したことになる

 

 『昨シーズンは、スコアのことは気にしていませんでした初戦がGP大会なんて、ダイスケはどれほどのプレッシャーを感じていたことか。それをカナが精神的にサポートした。そして全日本ではウォームアップでカナが怪我をし、本番ではダイスケが支えた。二人のチームとしての相性の良さが明白でした。彼らは素晴らしい選手で性格が良いだけでなく、戦うことを恐れない戦士なのです』

 

『世界のアイスダンスの歴史を変えるチーム』

 今シーズンは、いよいよ北京オリンピックへの出場を懸けた戦いとなる

 

 『これまでゴルデーワ&グリンコフ(1988、1994年五輪ペア金メダリスト)やメリル&チャーリー(デイビス&ホワイト、2014年五輪アイスダンス金メダリスト)を指導してきましたが、その選手がだいたいどこまで行けるか、私にはわかります。何年かけて練習してもトップにいけない組もいる。でもカナとダイスケは、日本だけでなく、世界のアイスダンスの歴史を変えるチームだと、私には確信があります。このわずか2年間での彼らの進歩が、それを証明しています』

 

 オリンピックでメダルを手にしたシングル選手が、種目を変えて国際大会でメダルを手にするというのはフィギュアスケート史上でまだ前例がない。高橋は今年で35歳だが、年齢は全く問題にならない、とズエワ・コーチは断言する

 

 『ダイスケは、この新しいチャレンジを心から楽しんでいるので、それが彼を精神的にも肉体的にも若く保っているのだと思います』

 

 結成して2シーズン目となった二人は11月にはNHK杯、そして12月にはいよいよ全日本選手権へと挑戦する予定だ