日刊スポーツから(10月5日付)

 

 

白岩優奈 特別な思い『NEW YUNA』への挑戦

内側からの喜びがにじむ、自然で穏やかな笑顔だった。10月4日に閉幕した近畿選手権。白岩優奈(18=関大)は特別な思いを抱き、3日のショートプログラム(SP)でリンクに立った

 

 『本当にうれしかったですし、内臓が跳び出るぐらい緊張して…。ホテルにいる時からドキドキが止まらなかったけれど、こうやってドキドキするのも10カ月ぶり。緊張も楽しめたんじゃないかな、と思います

 

冒頭のルッツ-トーループの連続3回転は、トーループで転倒。それでも残り2つのジャンプを決め、ほほえんだ。SPは5位発進となり、翌4日のフリーを合わせて合計164.64点の6位。それでも『まだまだ伸びしろはある。たくさん課題が見つかって良かったです』と明るかった

 

約10カ月前の19年12月。白岩は東京で行われた全日本選手権の観客席にいた。同年8月に体調を崩し、12月上旬に右脛骨(けいこつ)など右足の故障で、約8週間の安静治療を余儀なくされていた

 

国内最高峰の舞台に立つことすら、かなわなかった

 

 『全日本(選手権)を見るのもしんどいというか、あまり乗り気じゃなかったけれど、やっぱり「いつまでもくよくよしている場合じゃない」と思いました

 

両親に『全日本を見に行きたい』と伝え、関西から東京へ向かった。複雑な気持ちに向き合いながら、最後は踏ん切りがついた

 

 『やっぱり全日本は特別な場所。出られなかったというのはすごく悔しかったです。人が演技しているのを見て、やっぱり吸収できることとか「うまいな」って思ったこととか、自分の課題とかもたくさん見つかった。見に行ったのは「良かったかな」って思って「来シーズンは絶対全日本に出場しよう!」という決意をしました

 

今年に入り、1月中旬からスケーティングを再開。4月にジャンプが跳べる予定だったが、回復が少し遅れたという。新型コロナウイルスの影響でリンクの閉鎖も重なり、ジャンプが戻り始めたのは7月以降だった。それでも『完治』という診断がうれしい。『これからはもっと思い切って練習できる』と目を輝かせる

 

近畿選手権の観客席から白岩の新SP『エデンの東』を見つめ、ふいに思い出した

 

3年前の17年11月。この平昌五輪シーズンが、白岩にとってシニア1年目だった。グランプリ(GP)シリーズデビューを果たしたNHK杯(大阪)の翌週。フランス杯が行われたグルノーブルで、ゆっくりと取材できる機会があった

 

白岩が名前を挙げたのが、NHK杯で2位に入った14年ソチ五輪銅メダリストのコストナー(イタリア)だった。15歳の白岩に対し、コストナーは30歳。滑りに思わず見入ったという。『コストナーさんは私の倍、生きている』と経験値の差を痛感した上で言った

 

 『シニアのトップ選手とは、滑りが全然違う。スケーティングの方にも、時間を使いたい。表現ももっと伸ばしたいです

 

あれから3年。『エデンの東』を提案した浜田美栄コーチは、白岩の滑りが生きる曲を推薦したという。振り付けはスペイン出身のエルネスト・マルティネス氏。『浅田真央サンクスツアー』にキャストとして出演する20代前半の青年と意見を出し合い、作品を完成させた。マルティネス氏からは、こう要求された

 

 『「NEW YUNA」を見せてほしい。滑りがきれいだから「エデンの東」はそんなきれいな部分を見せられる。素のままの優奈の滑りを見せてほしい

 

白岩はこの春、関大に入学した。あの日コストナーの滑りに見入った高校1年生は、seniorのレベルでもまれ、相次ぐ故障に思い悩み、再びリンクに立った

 

低年齢での飛躍が目立つ現在の女子フィギュア界で、18歳はもう『若手』と分類されないかもしれない

 

それでもスケートを続けるからこそ、磨き、見せられる『深み』が必ずある

 

『NEW YUNA』への挑戦が、今季の楽しみに加わった