[7月13日付 SankeiBizから]

欧州に大規模停電危機 独の脱原発を受け、多額の経済損失確実


 東京電力福島第1原子力発電所の事故を機にドイツが原発の全廃を決めたことを受け、欧州に大規模停電の危機が迫っている。同国が電力の輸入国に転じることにより、欧州域内の送電網に負荷がかかるためで、最悪の場合、欧州の約半分の地域が影響を受け、多額の経済的損失が発生するとみられている


06年1000万人影響


 ドイツの送電網規制当局、連邦ネットワーク庁は脱原発政策を踏まえ、2006年以降で最も広範囲にわたる停電が欧州で発生する恐れがあると警告している。06年の独エーオンが引き起こした大規模停電ではドイツをはじめ、オーストリアやベルギー、フランス、イタリア、ポルトガル、スペインなど周辺各国も含め1000万人に影響が及んだ


 メルケル首相は3月、福島第1原発のメルトダウン(炉心溶融)を受け、国内にある最も旧式の原発7基の停止を指示。さらに国内で反原発の機運が高まったため、従来のエネルギー政策を転換し、2022年までに国内の全原発を停止する方針を決めた。ドイツは昨年、電力需要の23%を原発でまかなっている


 連邦ネットワーク庁は、原子力政策の転換により、7カ国以上の送電網でリスクが高まると分析している。欧州には30万5000キロメートルに及ぶ送電網が国境を越えて張り巡らされており、最も需要が大きく、最も高い電気料気を支払う場所に電力を送り続けている


 同庁は、欧州全域で需要がピークを迎える冬季には送電網の最大40%が過負荷となる恐れがあると予想。冬季に国内の電力需要が増え過ぎた場合、停電を回避する最後の手段として動車工場などへの電力供給を停止する可能性があり、『大規模な経済損失』につながるとの見通しを示す。12月の電力需要予測は最大8万メガワットで、6月上旬の下限だった3万5000メガワットの2倍以上という


 ドイツの送電会社4社も、同国南部のステイ400万世帯に対して冬季の電力供給を保証できないと明らかにしている


チェコ産業貿易省の電力部門のディレクター、ロマン・ポルチュザク氏は取材に対し、『問題は、停電が起きるかどうかではなく、いつ起きるかだ欧州地域の半分に影響が及ぶ可能性がある』と語った


 ドイツが電力簿足を補うため隣国のチェコやポーランドからの電力輸入に頼るのは難しい。ポーランドとチェコの送電網は国内需要をまかなうために30年前以上に作られたもので、両国が欧州の電力取引制度に参加する以前に建設されたもので、容量も不足しているため


 チェコの電力最大大手CEZで販売トレード部門の責任者を務めるアラン・スボボダ氏は『ドイツへの送電が設備と電力供給の安全性に多大なプレッシャーを与える』と指摘した


再生エネのコストも


 英調査会社ブルームバーグ・ニューエナジーファイナンスの電力アナリスト、マノン・デュフール氏は『ドイツは原発の代わりに再生可能エネルギーを利用しようとしており、そのためのコストも引き受けるだろう』と指摘した。ドイツは昨年、電力の約17%を再生可能エネルギーでまかなっている


 ドイツ銀行は、脱原発によって、ドイツが電力輸入国になると指摘。昨年14テラワット時を輸出したが、今年は約4テラワット時の輸入超過となる見通しという。欧州の指標となるドイツの電力先物料金は今後1年で11%上昇する可能性があるとみている


SankeiBizから:http://www.sankeibiz.jp/macro/news/110713/mcb1107130505026-n1.htm