僕がここ数年、かなりこだわっている言葉があります。
「要件定義」です。
こだわっているというか、ちょっと怨念に近いものすらあるかもしれない。
前職にいた頃、一時期ですが「要件定義なんかしてる暇があったら作れ」みたいな空気を感じることがありました。
要件をちゃんと決める人間の方が面倒くさい。
細かいことを言うな。
とりあえず進めろ。
そんな感じです。
でも僕は、その裏側で起きる地獄を散々見てきました。
何を作るのか決まっていない。
誰のために作るのかも曖昧。
完成の条件も分からない。
それなのに、人だけ動いている。
途中で「あれ違う」「これじゃない」が始まって、作り直す。
納期は変わらない。
現場だけが疲弊する。
金額にしたら、一体いくら失われたんだろうと思います。
数十億円とか、そういうレベルでは済んでいないんじゃないかと、個人的には思っています。
もちろん正確な計算なんてできないですけどね。
僕自身も、要件が曖昧な仕事で散々嫌な思いをしてきました。
だから今は、仕事を始める時にかなり意識して分解します。
今目の前にあるものは何でできているのか。
何を変えたいのか。
そのためには、どの構成要素を変えればいいのか。
何を加えるのか。
何を減らすのか。
完成した状態はどういうものなのか。
これをなるべく言葉にする。
僕は口頭だと頭の中にあるものを全部きれいに出せないこともあります。
なので文章にします。
文章にしてみると、自分でも「あれ、ここ決まってないじゃん」と分かる。
これがかなり大きい。
思い返すと、僕は仕事だけではなくて、プライベートの問題でも、裁判沙汰になったことでも、人の生き死にに関わるようなかなり重たい問題でも、この考え方を使ってきました。
感情的に考えないという意味ではありません。
感情は当然あります。
ただ、
「今何が起きているのか」
「何が問題なのか」
「自分はどうしたいのか」
「相手は何を求めているのか」
「何が決まれば次に進めるのか」
これを一個ずつ書いていく。
それだけでも、ものすごく状況が変わることがあります。
バンドだって同じでした。
音楽なんて感覚の世界に見えますけど、
「どんな曲にするのか」
「誰が聴くのか」
「テンポはいくつなのか」
「ギターはどんな音なのか」
「この曲の完成条件は何なのか」
ここが決まっているだけで、制作速度は全然違います。
逆に「なんかカッコいい曲作ろうぜ」だけだと、延々終わらなかったりする。
クリエイターほど、ここを嫌がることがあります。
僕もクリエイターだから分かります。
感覚で作りたい。
説明したくない。
理屈にすると面白くなくなる。
分かるんですよ。
でも、仕事になった瞬間、それだけではかなり苦しくなる。
僕がクリエイターの人たちを助けたいと思う理由の一つも、ここにあります。
才能がないんじゃない。
要件定義を誰かが手伝えば、もっとスムーズに仕事になる人がたくさんいる。
そう思っています。
そして、これからAIがさらに進化すると、要件定義はむしろもっと重要になると思っています。
よく「AIが賢くなれば、誰でも同じことができるようになる」と言われます。
半分くらいはそうなると思います。
でも全部ではない。
AIがどれだけ賢くなっても、
「何をしてほしいのか」
という入口がないと動きようがない。
たとえば、
「仕事してください」
と言われても分からない。
何の仕事なのか。
仮に経理処理なら、
A社に100万円の仕事をしてもらった。
請求書を作る必要がある。
担当者は○○さん。
締め日は○日。
その日までに処理されないと翌月入金になってしまう。
ここまで情報があれば、AIはかなりのことをやってくれる。
メールを書いたり、請求書を作ったり、必要な作業を整理したり。
でも本人が、
「誰に」
「何を」
「いつまでに」
「何のために」
を分かっていなかったら、AIだって困る。
これはAIの性能の問題じゃない。
要求する側の問題です。
料理でもそうだと思います。
自分が存在すら知らない料理を「今日食べたい」とは、なかなか思えない。
AIの中にその知識があったとしても、自分の頭の中に問いが生まれなければ、検索すらしない。
AI時代に必要になるのは、全部自分でできる能力ではなくて、
「自分は今何をしたいんだ?」
を言葉にできる能力なのかもしれません。
僕自身、昔からこれが得意だったわけじゃないです。
むしろ曖昧な状態で悩み続けて、かなり苦しんだこともあります。
でも書くようになった。
分解するようになった。
条件を決めるようになった。
それで仕事も音楽も、人間関係の問題も、かなり前に進むようになりました。
だから僕は、要件定義というちょっと堅苦しい言葉を、仕事だけのものだとは思っていません。
「俺は結局、何に困ってるんだっけ」
そこを書き出すだけでも、かなり違う。
今でも何か問題が起きると、だいたい僕はそこから始めています。