Suno AIの9月3日の変更を見て、音楽家の価値はむしろ上がると思った
音楽生成AIのSunoが、2026年9月3日からダウンロードに関するルールを大きく変更します。
この発表を見た時、正直なところ「制限が厳しくなるな」とは思いました。ただ、ずっと音楽を作ってきた側としては、少しほっとした部分もあります。
生成AIが出てきて、誰でも音楽を作れるようになったと言われるようになりました。それは間違いではありません。でも実際に仕事で使ってきた感覚では、誰でも音を出せることと、必要な音楽を作れることは同じではないです。
今回の変更を見て、その違いが少しずつはっきりしてきたように思いました。
もともとは、かなり手作りで音楽を作ってきた
僕は生成AIをかなり早い時期から使ってきました。音楽の生成AIにも比較的早く触れる機会があり、仕事でもいろいろ試してきました。
ただ、もともとの僕はかなり手作りで音楽を作ってきたミュージシャンです。
パソコンで音を一個ずつ打ち込み、ギターを弾いて録音する。頭の中にあるメロディーやアレンジを譜面にして、そこから声や楽器の音色を選ぶ。必要なら効果音を作り、録った音を編集して、全体のバランスを整えていく。
一曲を作るために、細かい判断を何度も重ねるやり方です。
そんな僕が生成AIを早くから使うようになったのは、周りの人とのご縁に恵まれたこともありますが、自分の得意なことと意外に相性がよかったからです。
僕は、人の話を聞いて、その人が何を求めているのか整理する仕事が割と得意です。本人の中でもまだ曖昧なイメージを聞きながら、「これは明るい曲というより、少し寂しさがあるんだな」とか、「派手さより、会社の誠実さが伝わる方がいいんだな」と音楽の条件に置き換えていく。
生成AIで重要なのは、単に長いプロンプトを書くことではありません。誰のために、どこで使い、聴いた人にどう感じてもらいたいのか。そこを決める要件定義の方が、実はずっと大きいと思っています。
安く早く作れるようになった良さと、少し複雑だったこと
生成AIによって、音楽を早く届けられるようになりました。
以前なら予算の関係でオリジナル曲を諦めていた中小企業やスタートアップ、個人の方にも、その人のための音楽を現実的な金額で作れるようになった。急ぎで必要になったプレゼン用の曲や、イベントで一度だけ使う音楽にも対応しやすくなりました。
これはお客さんにとっても、作る側にとっても良かったことです。
その一方で、安く作れるものばかりが選ばれやすくなり、音楽制作全体の単価が下がっていく怖さもありました。
僕自身もAIを使って仕事をしているので、そこを他人事のようには言えません。お客さんの予算に合わせて、早く用意できることは価値です。ただ、音楽の内容よりも「安く、すぐ出ること」だけが価値になってしまうと、たまにこれは音楽家の仕事なんだろうか、と少し複雑に思うこともありました。
9月3日からSunoの何が変わるのか
Sunoの公式発表では、2026年9月3日からプランごとにダウンロード数の上限が設けられます。
・無料プラン:生涯で7曲まで。個人利用のみ
・Pro:月20曲。商用利用可能
・Premier:月60曲。商用利用可能
・PremierでSuno Studioを利用する場合:Studioからのダウンロードは無制限
同じ曲をWAVとMP3でダウンロードしたり、後からステムを取得したりしても、同じ曲であれば1曲分として数えられます。使わなかった月の枠は繰り越されません。上限を超えた場合は、追加枠を購入する仕組みも用意される予定です。
ここは誤解しやすいのですが、現時点で制限されるのは生成回数そのものではありません。Suno上で曲を作ったり聴いたり、リンクを共有したりすることはできます。制限されるのは、音源ファイルをSunoの外へ持ち出す曲数です。
ただし、商用利用する音楽については、有料プランでSunoの正式なダウンロード機能を使って取得していることが条件になります。
これまでのように、生成した候補をとりあえず何十曲もダウンロードして、そこから外で選ぶようなやり方はしにくくなります。仕事で使うなら、Suno上である程度きちんと選び、どの曲を正式な成果物として持ち出すか考える必要が出てきます。
大量生成した曲をそのまま配信サービスへ流し込むような使い方を抑えることが、今回の変更の主な目的だとSunoは説明しています。
参考:Suno公式発表
https://suno.com/blog/suno-updates-tos
参考:ダウンロードと旧モデルに関する公式FAQ
https://help.suno.com/en/articles/13614785
新モデルへの移行と、音楽業界との共同開発
Sunoは、音楽業界と共同開発した新しい世代のモデルを今後公開することも発表しています。
新モデルの公開日は、現時点では9月3日と明言されていません。ただし、新モデルが公開された時点で、それ以前のモデルは新規生成には使えなくなる予定です。
過去に作った曲が消えるわけではありません。再生や共有はでき、カバーやリミックスの元にも使えます。ただし、その処理には新しいモデルが使われるため、元のモデルと同じ癖や質感が再現できるとは限りません。
僕のように、ジャンルによってモデルを使い分けたり、あるモデル特有の少し荒い音が合うと思って使っている人にとっては、制作方法を見直す必要が出てきます。
また、SunoはBMGとの提携を発表し、アーティストやソングライターが参加を選べる形で、新しい音楽体験や収益機会を作るとしています。AIだけで勝手に音楽を学習して広げていく方向から、音楽会社や権利者と仕組みを作る方向へ移ろうとしているように見えます。
これはあくまで僕の見方ですが、今後は特定のアーティストや既存曲へ安易に寄せる作り方が、さらに通用しにくくなると思っています。
Sunoはもともと、特定のアーティスト名や著作権のある楽曲を指定するプロンプトを認めていないと説明しています。アーティスト名が入力された場合は、その名前を外し、音楽的な特徴の説明へ置き換える仕組みも使っています。
これからは「エアロスミスみたいに」「スピッツみたいに」と名前だけを入れるのではなく、その音楽のどこが好きなのかを説明する力が、もっと必要になるはずです。
参考:Sunoの音楽生成と権利保護に関する方針
https://suno.com/blog/building-the-future-of-music-responsibly
参考:SunoとBMGの提携発表
https://suno.com/blog/suno-partnership-bmg
「誰でも音楽を作れる」は、本当でもあり、本当ではない
生成AIがあれば、音楽経験のない人でも曲の形を作れるようになりました。
どんな雰囲気にしたいかを言葉で伝えれば、歌や伴奏が付いた音楽が数分で返ってくる。以前なら考えられなかったことです。この意味では、誰でも音楽を作れるようになったというのは本当です。
ただ、自分の頭の中で鳴っている音や、お客さんが必要としている音を狙って出せるかというと、そこは別の話です。
例えば「ロック」と一言で言っても、年代や地域によって全然違います。ギターの歪ませ方やドラムの鳴り方、ボーカルの距離感でも印象が変わる。曲の構成やコード、テンポが違えば、同じロックという言葉でも別の音楽になります。
ジャズやファンク、ソウルでも同じです。ジャンル名は入口にはなりますが、それだけで自分が欲しい音を正確に指定するのは難しい。
AIに対して細かく伝えるためには、自分が何を聴いているのか理解する必要があります。「この曲が好き」で終わらず、リズムが好きなのか、声の質感が好きなのか、コードの響きに反応しているのかを少しずつ言葉にしていく。
ここは音楽を長く聴き、演奏し、作ってきた人が力を発揮しやすい部分です。
もちろん、音楽理論を知らなければAIを使ってはいけないという話ではありません。好きな音楽をよく聴いて、少し調べるだけでも伝えられることは増えます。音楽の歴史やジャンルを知ることが、そのままAIに対する語彙になります。
AI音楽ソフトがDAWに近づいている
もう一つ面白いのは、AI音楽ソフトそのものがDAWに近づいていることです。
DAWはDigital Audio Workstationの略で、パソコン上で録音や編集、作曲、ミックスなどを行うための制作環境です。僕ら音楽制作者はCubaseやPro Toolsなどを長く使ってきました。
Suno Studio 2.0では、音量や定位を時間に沿って動かすオートメーション、EQやコンプレッサー、リバーブなどのエフェクトが扱えるようになっています。MIDIの打ち込みや編集、オーディオからMIDIへの変換にも対応し、自分で録音したWAVやMP3、MIDIファイルを読み込むこともできます。
完成した曲を一つの音源として書き出すだけでなく、ボーカル、ドラム、ベース、ギターなどに分けたステムを編集して持ち出すこともできます。
ボタンを押したら一曲できるだけのサービスから、AIを中心に置いた制作環境へ変わってきています。
入口は初心者にも開かれていますが、細かく直そうとするほど、音楽や音響の知識が役に立つ。便利になったと同時に、少しずつ専門的な道具になっている感じがあります。
参考:Suno Studio 2.0公式ガイド
https://help.suno.com/en/articles/13670529
AIで初めて自分の歌を作れた人もいる
ここまで音楽家の専門性について書きましたが、僕はAIで音楽を作る人を否定したいわけではありません。
楽器が弾けなくても、自分の歌詞にメロディーが付き、自分の歌が形になる。家族のために作った曲や、自分の気持ちを残した曲が、その人にとってかけがえのないものになることもあります。
生成AIがなければ音楽を作ろうと思わなかった人が、初めて作る側の喜びを知った。これはかなり大きなことだと思っています。そこから音楽を聴く量が増えたり、楽器や作曲に興味を持つ人もいるはずです。
だから、AIを使う人と昔から音楽を作ってきた人を、単純に対立させる必要はないと思っています。
ただ、今までの音楽の歴史や、誰かが作ってきた楽曲、演奏家の技術に少しリスペクトを持って接した方が、結果的にAIでも自由な表現ができます。
音楽はかなり体系化されています。理論もあれば、ジャンルが生まれた経緯もあり、楽器ごとの奏法や録音方法も蓄積されています。それを全部勉強する必要はありませんが、興味を持ったところから少し知るだけで、自分がAIに伝えられる内容はかなり変わります。
音楽家とAIが一緒に仕事をする段階に入った
生成AIが出てきた頃は、正直に言えば、音楽家の仕事が全部安いAIに置き換わるような展開も想像しました。
実際、簡単な用途では置き換わった仕事もあると思います。単価が下がった分野もあります。
ただ最近の動きを見ると、完全に人を外す方向ではなく、音楽家や権利者とどう共存するかを探る段階に入ってきたように感じます。Suno自身も、アーティストや作曲家、プロデューサーと製品を作る方針を出しています。
AIを使えば完成、ではなく、何を作るか決めて、必要な音を選び、編集し、権利を確認して納品する。そこまで含めると、音楽の経験がある人の役割はまだかなりあります。むしろ道具の機能が増えるほど、経験が使える場所も増えていくと思っています。
僕も今、各サービスの規約や販売先のルールを調べながら、AIも使った音楽素材を販売する仕組みを考えています。まずはゲーム向けのRPG音楽など、自分が昔から好きで、音楽的にもよく分かっている分野から始めるつもりです。
AIで音楽を作ってみたい方や、自社の仕事でどんな使い方ができるのか知りたい方がいたら、気軽にご連絡ください。僕が実際にどこまでAIを使い、どこから自分で手を入れているのかも、具体的にお話しできます。