プロ野球で、まさに小説家でも思いつかないようなことが起きてしまった。読売巨人軍・阿部慎之助監督の辞任である。
報道によれば、自宅での娘さんとのトラブルが原因とされている。実際に何がどの程度あったのか、メディアの報道も含めて我々が知る余地のないことだろう。ただ事実として言えるのは、読売巨人軍という球界の盟主、9回の日本一を成し遂げた名門の監督が、6月を待たずしてシーズン途中で辞任したということである。しかも今、借金を15個近く抱えている中日ドラゴンズよりも先に、である。
そこで監督代行に指名されたのが、なんと現役時代を巨人では送っていない橋上秀樹さんである。
橋上さんはヤクルトの選手だった。現役が終わってからも野村克也の野球をずっと見てきた男であり、野村克也のまさに申し子というような存在である。新潟のオイシックス(旧BCリーグ新潟)で監督を歴任し、あらゆる球団で野村さんの参謀、そして原監督の参謀も務めてきた。彼の野球本を読んでも、本当に野球を知り尽くしている人物だということがわかる。カウントごとの打者の動き、誰がどういうバッティングをするべきかということを、全てを把握しているようなコーチなのである。
だが、この重みを本当に背負えるのか。
巨人という球団は、プレパーの選手時代の実績がすごい人たちばかりが監督を務めてきた。長嶋茂雄、王貞治、藤田元司、原辰徳、そして阿部慎之助。そのそうそうたる歴史の中で、橋上という男がどうやって戦うのか。プレッシャーを超えたようなプレッシャーだと思う。
逆に言えば、野球ファンとしてはむちゃくちゃ面白いことになった。
阿部監督の辞任は本当に残念である。なんだかんだ言っても巨人というのは球界の秩序であり、抑えておいてほしいポイントではあるのだ。だが一方で、ここから始まるのは「野村野球」、いわゆる弱者の兵法である。今の巨人の戦力を見て圧倒的強者とは思えない。その巨人を使って、野村さんの野球をやるのである。
これはある意味、僕が尊敬する野村克也さんの夢だったのではないか。「もし巨人の監督をやれたなら」と、ノムさんなら考えたことがあったはずだ。その夢を、橋上がどうやって実現していくのか。楽しみが今ある。
もちろん阿部さんのことは非常になんとも言えないし、残念でもある。野球はもっと綺麗なものであってほしいと思う。ただ、家庭のことは家庭のことだし、楽しさも含めた感情は外から簡単にはわからない。プライベートはプライベートだろう。
それでもやはり、野球というスポーツには小説でも思いつかないようなドラマが起こる。それが野球の恐ろしさであり、面白さでもある。橋上巨人がどんな野球を見せてくれるのか、一人の野球ファンとして注目していきたい。