『キッズ・リターン』『愛がなんだ』『喜劇 愛妻物語』他、2024・1月 | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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映画感想、読書感想を備忘録として書いてます。
三浦しをん氏のエッセイを愛読しています。
記憶に残る映画と1本でも多く出会えることを願っています。

前回に引き続き1月の映画鑑賞記録PARTⅡになります。

 

『キッズ・リターン』1996年

監督 北野武

 

感想)高校生のマサル(金子賢)とシンジ(安藤政信)は授業をサボり校舎の屋上から教師の顔を描いた卑猥な人形を吊り下げたり、教師の新車に火をつけて燃やしたりした挙句職員室に呼ばれ「もう学校に来るな」と言われる。ある日、カツアゲした高校生の知人らしき男に強烈なパンチをくらい反撃できなかったマサルはシンジも誘いボクシングジムの練習生になったが、ボクシングの才能を認められたのはシンジのほうだった。ラーメン屋で知り合ったヤクザの組長(石橋凌)に心酔したマサルは組員になり、やがて幹部へと昇格していくが・・・

 

北野映画の特徴は独特の間や空気感、説明的なものを極力省略した簡潔さ、カットの魅力(編集は監督自身がやっているケースが多い)例えば、多くの映画にありがちな主人公の家庭環境の描写はこの作品では一切ない。マサルやシンジの家庭環境を描かなくても彼らの会話や行動を見ていれば自ずとそれを想像することは可能だ。久石譲の音楽が北野映画の魅力をさらに高めているのも周知の通り。何事にも中途半端だったマサルやシンジは大きな挫折を味わい、地道に漫才修行に励んだ級友は日の目を見、喫茶店のお姉さん(大家由祐子)に熱心にアタックしていたクラスメートは彼女を妻にすることが出来たが、社会人となり「生業としての仕事」の現実の厳しさに向き合うことになる。人生の冷厳さを映画という虚構の中で、北野武はさりげなく表現しているように思えた。★★★★★

 

 

『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』2007年

監督 吉田大八

原作 本谷有希子

 

感想)両親が交通事故で亡くなり、北陸地方の過疎地の村に帰ってきた売れない女優・澄伽(佐藤江梨子)。兄(永瀬正敏)とその妻(永作博美)、妹の清深(佐津川愛美)に迎えられるが、そこには何か不穏な空気がただよっていて・・・

 

佐藤江梨子は演技が上手いのか下手なのか判断出来かね、永作博美はキャラクターに合わせてオーバーな演技をしているように見え、永瀬正敏はこの役柄を演じることに途惑いを感じているように見受けられる。妹役の佐津川愛美だけは非常に演技力が高い女優であることを感じた。映画の紹介記事ではブラックコメディとされているようだが、コメディ映画には思えない闇の深さを感じさせる作品。CMディレクターだった吉田大八の映画監督デビュー作。キネマ旬報ベストテン第10位 ★★★★

 

 

 

『愛がなんだ』2019年

監督 今泉力哉

原作 角田光代

 

感想)田中マモル(成田凌)をマモちゃんと呼ぶ山田テルコ(岸井ゆきの)は、熱を出して寝ているマモちゃんに呼び出され、買い物をして料理を作ってやったりするが、ついでに風呂場の掃除までするテルコさんを田中は何となく鬱陶しいと感じている。

テルコの友人である葉子(深川麻衣)は知り合いの男仲原(若葉竜也)を意のままに命令し仲原はそれを従順に受け入れている。ある日田中の知り合いのすみれさん(江口のりこ)を紹介されたテルコはマモちゃんがすみれさんにぞっこんであると知り・・・

 

テルコとマモちゃんは友人以上恋人未満のような関係だが、テルコのほうが一方的にマモちゃんへの愛をつのらせる。テルコの友人葉子も一風変わっていて、母親(筒井真理子)も半分匙を投げている様子。マモちゃんがぞっこんなのはガサツなすみれさん。テルコは自分のマモちゃんへの執着がなんであるか分からないまま、仲原を振り回す葉子に怒りをぶつけ、葉子はテルコを振り回すマモルに電話で忠告する。それぞれの愛の正体やいかに?。

江口のりこも岸井ゆきのもコメディ映画のように笑わせてくれ、真剣だからこそ、そこに生まれるある種の滑稽さが際立つ。

会話も感情もリアルで特上に面白い!キネマ旬報ベストテン8位★★★★★

  

 

 

 

 

『喜劇 愛妻物語』2020年

監督・原作・脚本 足立紳

 

感想)年収50万以下のシナリオライター柳田豪太(濱田岳)には、幼い娘のアキがいるが、妻のチカ(水川あさみ)には2カ月セックスをさせてもらえず悶々としている。映研だった学生時代『暴力温泉』という脚本が映画化されて以来仕事の依頼も無く

くすぶっている。妻のチカはアルバイトで家計を支え、不甲斐ない豪太に容赦なく罵詈雑言を浴びせまくる。ある夜、豪太が自室にこもりバーチャルでエロ動画を観ているとチカが部屋に入ってくる。「お前、音が漏れてんだよ。仕事もないのにエロ動画ばっかり見やがってよ。アキが起きんだろうが、しまえ、その汚ねえの」あわててパンツを引きずりあげる豪太。「でもさ、それはチカちゃんがさせてくれないからじゃない。あ、そうだ。代々木さんから電話があってね、新しい仕事始めるかも」「どうせ実現なんかしねえよ。代々木さんて時点でアウトじゃん」

 

3年ぶりに代々木(坂田聡)に会って話を聞くと、豪太が出していたうどんのプロットを新人女優の売り出しで採用したいと言われる。その上、以前提出していた『八日村の祟り』も台本が印刷され、映画化に向け進展していると言われ、「いよいよ流れが来た」と気を良くする豪太。うどんの話なので香川へシナリオハンティングに行くことになり、運転免許のない豪太は免許を持っているチカを説得し、娘のアキも連れ青春18きっぷで香川へ向かうのだったが・・・

 

監督足立紳の自伝的原作の映画化。こんな鬼嫁の罵倒に耐えて 才能を開花させた足立紳監督の忍耐力に敬意を表したい。これが実録ならよく犯罪事件にならなかったものとあきれるくらい水川あさみの濱田岳への罵倒ぶりは辛らつを極める。あるいは鬼嫁であったことで、それを見返すために発奮したとも考えられなくもないが。今から半世紀以上前、『愛妻物語』という映画でシナリオライターを主人公にした自伝的作品を撮った新藤兼人氏がこの『喜劇 愛妻物語』を観たなら果たしてどんな感想を抱くだろう。鬼嫁ながら、10年前に恋人だった濱田岳扮する豪太を励ますためにお揃いで買った端の繊維が擦り切れたような赤パンツをはき続けている水川あさみ演じるチカが健気。

最後の放屁が強烈だった。キネマ旬報ベストテン第8位。

水川あさみが主演女優賞。★★★★★

 

 

 

1回の記事で10作品を書く予定でしたが、あらすじ入りの感想で長くなったのでこの辺でやめておきます。

 

1月の鑑賞作品はまだあるので地道に記事にして行きます。