『殺人の追憶』『吠える犬は嚙まない』『散歩する霊柩車』他、2022.6月 | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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映画感想、読書感想を備忘録として書いてます。
三浦しをん氏のエッセイを愛読しています。
記憶に残る映画と1本でも多く出会えることを願っています。

6月に鑑賞した映画は7本で、そのうち1本はいづれ単独で感想を記事にする予定です。月の半ば以降は図書館で借りた本9冊を読むのとその感想を記事にするために時間を使い、観た映画は月の初めに集中し今から3週間以上経った映画がほとんどなので記憶違いがあるかも知れませんのでご了承下さい。

 

本の感想記事が長すぎると自覚しており(文章を一部抜粋しているため長くなり簡潔に感想を書くだけの文章力もないため)映画の感想は簡潔に行こうと思います。

 

 

『殺人の追憶』(監督・ポン・ジュノ 脚本・シム・ソンボ ポン・ジュノ 2003年)

 

韓国で実際に起きた連続婦女強姦殺人事件がもとになっている。

この事件は長らく未解決で既に公訴の時効が成立していたが、

2019年9月に最新のDNA鑑定により犯人が判明した。連続強姦殺人犯は妻の妹への強姦殺人罪で刑務所に収監中の男だった。

映画が製作された時点では事件はまだ未解決だったため、この作品のラストは犯人が特定されていない。韓国警察の無能ぶりが皮肉をこめて描かれていると同時に、捜査にあたる刑事たちの描写は時にユーモアを交えながら人間味にあふれている。

☆☆☆☆★(☆5が満点 ★は0.5点)

 

 

 

 

『ほえる犬は噛まない』(監督・脚本 ポン・ジュノ 脚本・ソン・テウン ソン・ジホ 2000年)

 

ポン・ジュノの長編劇映画デビュー作。巨大団地の管理事務所で経理を担当しているヒョンナム(ペ・ドゥナ)と大学教授を目指している青年ユンジュ(イ・ソンジェ)が行方不明になった犬を捜して巻き起こす騒動。団地の管理をしている男が犬を鍋にして美味そうに食べるシーンがエグイ。全体的に犬を虐待するシーンが多いので愛犬家は鑑賞要注意。ペ・ドゥナがその個性を遺憾なく発揮している。☆☆☆☆★

 

 

 

『卑弥呼』(監督・脚本 篠田正浩 脚本・富岡多恵子 1974年)

 

『心中天網島』(1969年)と同じ篠田正浩監督、脚本富岡多恵子、音楽武満徹、美術粟津潔で夢よもう一度?。「卑弥呼」の歴史的な事実関係は措くとして、映画ファンが見たいのはそこではないだろうし、美術的な事柄(現代的なデザインの建築、演劇的な舞台装置、衣装、装飾品など)に興味深いものが見られるが、映画としては生真面目に作りすぎていてやや面白味がない作品だった。岩下志麻の白塗りの巫女さん姿は一見に値するが、それが映画の見所だとすれば淋しい限り。川島雄三や石井輝男監督なら違う視点からユニークな「卑弥呼」像が造形できたかもしれない。☆☆☆★

 

 

 

 

『散歩する霊柩車』(監督・佐藤肇 原作・樹下太郎 脚本・松木ひろし 藤田傳 1964年)

 

タクシー運転手の男(西村晃)が妻(春川ますみ)の浮気現場を目撃、喧嘩になった末、妻と結託、妻が死んだことにして霊柩車に乗せ金持ちの浮気相手から金をせびり取ろうとする。奇想天外なストーリーにラストは衝撃的な幕切れ。霊柩車の運転手役に渥美清が扮してある種の凄みを醸し出す。邦画の隠れた傑作。☆☆☆☆☆

 

 

 

 

『時雨の記』(監督・脚本澤井信一郎 原作・中里恒子 脚本・伊藤亮二 1998年)

 

吉永小百合が長年温めていた企画で映画製作に向け共演の渡哲也共々東映社長岡田茂(当時)を説得、吉永、渡ともにノーギャラで出演したというエピソードは何やら感動的。当時は『失楽園』のような濡れ場がある大人向けの不倫劇が大流行、『時雨の記』のような清廉な「純愛映画」をヒットさせるのは至難と思われたが、吉永小百合が18回に及ぶトークショーを開催しヒットに繋がった。内容については感じ方は人それぞれと言う他ないが、この作品を観て「西行」に興味を持った。☆☆☆☆

 

 

 

『酔いがさめたら、うちに帰ろう。」(監督・脚本 東陽一 原作・鴨志田穣 2010年)

 

戦場カメラマンだった塚原安行(浅野忠信)は大量の飲酒が止められず幻覚を見て妻の由紀(永作博美)に暴言を吐き暴力を振るい血を吐いて何度も救急車で運ばれる。どうしようもない父親だが幼い2人の子供は塚原になつき、由紀や母の弘子(香川美子)も半ば呆れながら献身的に見守っている。病院で抗酒剤を貰い在宅で治療に通っていた塚原は、ある日コンビニで大量の酒を買い込んで公園で酔いつぶれる。やがてキッパリ酒を断つためアルコール依存症治療病棟がある精神科病院に入院することを決意するが・・・

 

精神科の病院に入ってからの塚原と患者たちのエピソードはリアリティがあり面白いが、妻や子供たちとの関係がどうも噓くさい。実在するモデルがいる作品にありがちな、色々問題はあるけど「やっぱりいい人」的な落ちがこの作品にも感じられた。

浅野忠信やアルコール依存症の患者たちが魅力的なだけに惜しいと感じる作品だった。エンディングテーマの忌野清志郎の曲も映画にそぐわず何だか変。無理に希望や明るさを持たせるエンディングにしても、却って違和感を生み出すだけのように思える。☆☆☆☆★