『スカーレットレター』(監督・脚本 ピョン・ヒョク 2004年 日本公開2005年 5/4 シネカノン)
出演・ハン・ソッキュ イ・ウンジュ オム・ジウォン ソン・ヒョナ ほか
<(字幕)おいしそうな実をつけた木があった 女はその実をもいで食べ 一緒にいた夫にも差し出すと 夫もそれを食べた>
<(ナレーション) すべての誘惑は楽しい 最高の快楽だ それはゲームのように始まる 興じるほかない>
ハン(韓)スタジオ ソウルの写真館で店主の男が血まみれで死んでいた。男には高額の保険金が掛けられ、第一発見者の妻のギョンヒ(ソン・ヒョナ)が店の奥の椅子に血に染まった服を着て座っていた。捜査に当たったギフン刑事(ハン・ソッキュ)はギョンヒに共犯者の愛人がいるのではと疑う。
ソウルのBlue Note バックにオーケストラを従えてカヒ(イ・ウンジュ)が歌っている。入って来るギフン刑事。カヒが気づいて微笑む。ギフン刑事にはスヒョン(オム・ジウォン)というチェロ奏者の妻がいて、カヒとは音大時代からの親友同士だった。
写真館の殺人事件の捜査はなかなか進まなかったが、店主の妻が何度か中絶していることが分かった。ギフン刑事の妻も妊娠中で病院に一緒に検査に行った際、妻に中絶した過去があったことをギフンは初めて知った。
カヒは元々ギフンの彼女だった。スヒョンを紹介されてスヒョンを気に入ったギフンと結婚。だが、ギフンとカヒの関係は今も続いていた。
Blue Noteでバンドメンバーと練習中、カヒはピアノの前でうずくまる。カヒもギフンの子供を妊娠していたのだった。
ギフンはおいしそうな実をつけた木をみつけその実をもいで食べた。写真館の妻は一日中座って客を待つだけの退屈な生活の中で週一度通ってくる客と話すことが嬉しかった。カヒにはギフンだけが生きがいだった。音大時代の親友スヒョンはギフンと結婚し大ホールでチェロを演奏し、自分はクラブ歌手。「私の愛する人はみな、結婚指輪をしている。指輪をはめて生まれてきたみたい」とカヒは思う。ギフンはスヒョンを愛しているという。彼女のことは何でも知っているという。でも、ギフンが知らないカヒとスヒョンだけの秘密があった。
欲望のまま甘い果実の誘惑に興じた男の行きつく先は地獄。そして、問題のトランクのシーンはカヒを演じたイ・ウンジュにとっても「本当に死にたいと思うほど地獄」。2005年2月22日に彼女は自ら命を絶った。「映画の人物から抜け出せず不眠症に悩まされて」いた。(映画公開前のインタビュー)
昨今、日本の映画界でも監督や俳優による強制的(脅迫的)性行為の強要、監督や出演俳優たちによる児童虐待的演出が問題になっているが、イ・ウンジュの死は映画の演出と出演俳優にかかる精神的苦痛の大きさついて考えさせられる出来事だった。精神が崩壊するまで頑張って作らなければ、いい映画は出来ないのだろうか。『永遠の片想い』のチョッと背伸びしてすねた、少女から大人へと変化していく、イ・ウンジュの姿が忘れられない。☆☆☆☆☆(☆5が満点)