『レスラー』ダーレン・アロノフスキー監督 2008年       | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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『レスラー』2008年

監督・ダーレン・アロノフスキー 脚本・ロバート・シーゲル 

 

出演・ミッキー・ローク、マリサ・トメイ、エヴァン・レイチェル・ウッド 他。

 

 1980年代のアメリカプロレス界で絶大な人気を誇ったランディ・ザ・ラム・ロビンソン(ミッキー・ローク)も1989年4月6日の試合を頂点にして下降線をたどり、20年後の今、

スーパーのアルバイトで稼ぎ週末だけ地方のプロレス興行で試合をするという日々を送っていた。住居にしているトレーラーハウスも家賃が滞り、試合が終わり足を引きずって帰ってもドアを鎖で繋がれて中に入れない始末。それでも近所の子供達には人気があり、地方興行ではランディがメーンエベンターを務め、レスラー仲間の尊敬も集めていた。ランディの唯一の慰めはクラブのストリッパー・キャシディ(マリサ・トメイ)だった。

キャシディには子供がいて、ランディに好意を持っていたがあくまでお客としてのランディであり一線を越えることは無かった。かつてのランディの人気を当て込んで有刺鉄線を使った過激な試合が組まれ、ランディはテーピングした手首に小さく折った剃刀をしのばせ、観客が相手のラフファイトに気を取られている隙に剃刀を自分の額に当て流血した。更にガラスの枠に激突して砕けたガラスが体に突き刺さった。この激しいファイトはランディにもさすがにこたえた。控室で意識を失ったランディは病院に運ばれ、担当の医師からプロレスラーを続けるのはもう無理だと宣告される。長年にわたるステロイド剤の使用で心臓をやられ、数年前にバイパス手術を受けている身体だった。

自分のレスラーとしての潮時と考えたランディは予定されていた試合をキャンセル、仲間に引退することを伝える。ランディはキャシディに相談し、孤独の辛さを話した。同情したキャシディは疎遠になっているランディの一人娘ステファニー(エヴァン・レイチェル・ウッド)に何かプレゼントしてよりを戻すことを勧め買い物に付き合うことを約束する。

 

頑なに父を拒絶していたステファニーもランディが持ってきたプレゼントに心を動かされたのか漸く父の話を聞く気持ちになった。昔来た海辺を散歩したり廃墟の建物に入ってダンスをしたりして打ち解け、土曜日に一緒にディナーに行くことを約束して父と別れた。プロレスラーにまだ未練が残っていたのか、ランディはある大規模なプロレス興行が開催されていた街へ行き、試合を観戦した後バーで声を掛けられた若い女に誘われセックスとコカインにふけった。娘との約束を忘れ寝過ごしたランディはステファニーに謝りに行くが散々罵られた挙句親子の縁を切ると言われる。スーパーの仕事も上手くいかない。客と接する総菜売り場に回され、小うるさい客の注文やレスラー時代を知る客にしつこく声を掛けられて我慢の限界がやって来た。マネージャーに悪態をつき暴れ回って店を飛び出した。一緒に暮らしたいと切り出したキャシディからもアンタとはただの客の関係、子供もいるし結婚は無理と拒絶された。ランディに残された選択肢はただ一つ。

以前マッチメーカーから依頼されていた伝説の1989年4月6日のアヤトッラーの試合の20年ぶりの再戦だった・・・

 

『ダイナー』や『ナインハーフ』時代のミッキー・ロークを知る映画ファンは余りの変貌ぶりに驚くはずだ。プロレスがガチのファイトだと信じていたプロレスファン(そういう人がどれほどいるかは知る由もないが)観たら夢破れること請け合い。いわゆるヤラセというのか、プロレスの試合は予めどういう試合展開にするかを対戦相手同士で打ち合わせておき、その筋書きに沿って戦い観客を満足させるというもの。これをアングルと呼ぶらしい。プロレスが一つのショービジネスであることをランディも承知している。普段のトレーニングをやって鍛えた上で自慢の長髪がなびく金髪の手入れ、日焼けサロンに通い精悍な肉体の魅力をアピールする努力も怠りない。しかし、体はすでにガタガタだ。肉体的老化を防ぐにもそれなりに限度がある。

ステロイド剤の長期使用で心臓をやられ、家族も放り出して好きなプロレラーの道を突き進んできたランディ。その代償は大きかった。残されたただ一人の家族、娘のステファニーには「頼りたいとき傍に居てくれなかった、ろくでなし。あたしに頼るのはやめて」と言われ、心の拠り所だったストリッパーのキャシディにも拒絶される。結局、ランディには<レスラー>の道しか自分を表現する場所はなかったのか。ラストに大観衆の熱狂の中でランディの必殺技<ラム・ジャム>が炸裂した。

ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、ミッキー・ロークがゴールデングローブ主演男優賞受賞。

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