キネマ旬報ベストテン号が昨日発売されたので早速購入した。日本映画ベストワンは濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』、外国映画ベストワンはクロエ・ジャオ監督『ノマドランド』。
新作映画への興味は次第に薄れて近年あまり新作映画を観る機会もないが、今年のベストテン(2021年度)には西川美和監督『すばらしき世界』(第4位) 吉田恵輔監督『空白』(第7位)『BLUE/ブルー』(第11位) 横浜聡子監督『いとみち』(第9位)が名を連ね、ご贔屓女優瀧内公美主演・春本勇二郎監督『由宇子の天秤』(第8位)がベストテン入りしているので鑑賞意欲が湧いてきた。俳優部門では『ドライブ・マイ・カー』に出演している三浦透子が助演女優賞に選出されたのは嬉しい限り。外国映画では第1位『ノマドランド』 第10位デレク・ツァン監督『少年の君』に興味を覚えた。
『バージンブルース』(監督・藤田敏八 脚本・内田栄一 1974年)
『赤ちょうちん』『妹』と同じ年に公開された藤田敏八・秋吉久美子コンビの青春映画三部作の中で面白さではこの作品が一番。
『赤ちょうちん』『妹』はキネ旬ベストテン入りしたが、『バージンブルース』はどういうわけか31位だった。☆☆☆☆★
『鍵』(監督・市川崑 原作・谷崎潤一郎 脚本・長谷部慶治・和田夏十・市川崑 1959年)
公開当時は成人映画指定を受け、フランスの映画史家ジョルジュ・サドゥールにはさんざん貶されたらしいが、仲代達矢や北林谷栄のとぼけた演技、京マチ子の色気、中村鴈治郎の変態ぶりはすこぶる面白かった。(☆☆☆☆★)
『墨東奇譚』(監督・豊田史郎 原作・永井荷風 脚本・八住利雄 1960年)(『墨東』のぼくはさんずい、『奇譚』のきは糸偏です。タイトルの漢字に変換できませんでしたので悪しからず御了承下さい。)
山本富士子の女郎役は中々お目にかかれない貴重な作品でもあり、演技力の高さも十二分に味わえる。(☆☆☆☆★)
『影なき声』(監督・鈴木清順 原作・松本清張 脚本・秋元隆太・佐治乾 1958年)
松本清張の原作がつまらないのか、脚本の出来が悪いのか、南田洋子、二谷英明は熱演だが今一つ盛り上がらない。(☆☆☆★)
『どぶ』(監督・新藤兼人 脚本・棚田五郎・新藤兼人1954年)
横浜の鶴見地区にあるルンペン部落を取材して作り上げた意欲作。乙羽信子のオーバー過ぎる演技と終盤近くの宇野重吉、殿山泰司の号泣シーンはやり過ぎのように感じ、その分やや評価を落とした。(☆☆☆☆)
『母』(監督・原作・脚本・新藤兼人 1963年)
病気の子供のために犠牲になりすべてを受け入れようとする母(乙羽信子)と現実的、功利的で絶えず自分の不幸を嘆くその母(杉村春子)との葛藤。(☆☆☆☆★)
『彼女と彼』(監督・羽仁進 脚本・清水邦夫・羽仁進 1963年)
団地に住むことが憧れであり中流意識を持てた時代、大型団地のすぐそばには廃品回収で暮らすバタ屋部落があった。☆☆☆☆★
『突撃!博多愚連隊』(監督・脚本・石井聡互(岳龍) 1978年)
映画の内容や出来は置いておいて、学生の自主制作作品でこれだけの規模の映画が作れたこと自体が驚き。☆☆☆☆★
『昭和極道史』(監督・佐伯清 脚本・松本功・山本英明 1972年)
『関東緋桜一家』をフィナーレにして藤純子(富司純子)が引退し、『仁義なき戦い』シリーズが始まる前の東映が次の一手で暗中模索している様がひしひしと伝わってくる。筋目を通した正統派ヤクザ梅宮辰夫と義理に縛られる渡瀬恒彦、父の復讐を胸に秘める加賀まりこ演じる女賭博師のアンサンブルが何とも言えない。☆☆☆☆
『昭和おんな博徒』(監督・加藤泰 原作・藤原審爾『昭和おんな仁義』 脚本・鳥居元宏・本田達男 1972年)
冒頭、般若の松吉(秋山勝俊)を捉え、仁義を切ってドスを突き刺す江波杏子の加藤泰のカット割りに痺れた。共演の天知茂はさすがの貫禄。☆☆☆☆★
『体操しようよ』(監督・菊地健一郎 脚本・和田清人・春藤忠温 2018年)
60歳で定年退職した企業戦士に自由な生活は訪れるのか。舘ひろし主演『終わった人』に通ずるテーマを朝のラジオ体操に絡めて描く。内容にそれほど見るべきものはないが、ご贔屓女優である和久井映見、木村文乃が出ているだけで最後まで鑑賞出来た。やはり映画に占める俳優の魅力は大きい。☆☆☆★
『川崎競輪』(監督・水野さやか 2016年)
スイスのジュネーブに生まれ育ち、祖父母の実家がある川崎市宮前で休暇を過ごすことが多かったという水野さやか監督のジュネーブ芸術大学卒業制作のドキュメンタリー映画。川崎競輪場近くにある立ち飲み屋に集う60~80代の競輪ファンおやじたちの飾らない姿が生き生きと捉えられている。☆☆☆☆☆
『いつか読書する日』(監督・緒方明 脚本・青木研次・緒方明 2005年)
主人公の二人が何十年ぶりかで言葉を交わすようになってからの流れが性急に進展し、渡辺美佐子のナレーションで説明されている所に映像でそれを見せる愚挙(岸部一徳の微笑みシーン)は屋上屋を架すようで白けてしまう。渡辺美佐子の認知症の夫(上田耕一)と放置されている子供たちが強く印象に残り、田中裕子と岸部一徳の恋愛はままごとのように見える。生まれ育った町とそこに生きる人たちを愛おしく思う気持ちがあれば一生独身でも本人にとって孤独ではなく、むしろ彼女のような生活はあこがれ。(☆☆☆☆)