『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年 監督真利子哲也 脚本真利子哲也・喜安浩平)
出演・柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、池松壮亮、村上虹郎、でんでん他。
事前情報はなるべく仕入れずに映画を観ているので、この作品の主演が「誰も知らない」(2004年)の柳楽優弥とは映画を観るまで知らなかった。「あらゆる映画は描き尽くされている。新しい何かを付け加えるとすれば、それは<今>を描くことしかない」。脚本家の荒井晴彦氏はそう述べているが、<今>という時代の”暴力”を描いて日本映画の暴力映画の歴史に名を刻んだのがこの「ディストラクション・ベイビーズ」という作品だ。実話に着想を得た真利子哲也と喜安浩平のオリジナル脚本ということから考えて、この作品が現実離れした作り手の突飛もない空想とは言い切れまい。愛媛県松山が映画の舞台。すべてロケ撮影の順撮り。飛び道具などの武器を持たない「素手」による喧嘩が延々と繰り返される、その生身の痛みがこちらにも容赦なく返ってくる。主人公芦原(柳楽優弥)は本能の命ずるまま<暴力>の標的を見つけ容赦なく殴る。相手の力が勝って殴られ蹴られ続けてもしがみつき離れないヘビのような男。行方をくらました兄を慕い心配する弟の将太(村上虹郎)。芦原に魅せられ、行動を共にする高校生北原(菅田将暉)。喧嘩の巻き添えを食い、拉致されるキャバクラ嬢那奈(小松菜奈)。三者三様、バラバラに気持ちはズレかみ合わないまま、映画はバッドな結末を迎える。菅田将暉が「セトウツミ」に通底するキャラクターに暴力性を秘めた役柄を好演。「バクマン」の清純なイメージが似合わなかった小松菜奈が性格の悪い<嫌な女>を見事に演じ切って若手の注目女優に。柳楽優弥の掴みどころのない「意味不明」的暴力も違和感がない。現実社会で「誰でもいいから人を殺してみたかった」という言葉が逮捕された犯人から聞かされるこの時代。「ヒメアノ~ル」や「ディストラクション・ベイビーズ」のような映画が作られたのも必然。真利子哲也は今後も注目すべき監督の一人になった。キネマ旬報ベストテン第4位。主演男優賞、柳楽優弥。新人女優賞、小松菜奈。☆☆☆☆★(☆5が満点)(4年前にYAHOO!ブログに投稿した記事を加筆修正致しました)
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