「日日是好日」大森立嗣監督 2018年 | レイモン大和屋の <シネ!ブラボー>

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三浦しをん氏のエッセイを愛読しています。
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 大森立嗣監督のデビュー作「ゲルマニウムの夜」(2005年)を観た時、新人監督とは思えない演出力と内容の衝撃性に瞠目した覚えがある。近いうちにベストテン入りするような作品を作るだろうという期待感と初作品の衝撃性ゆえに1、2本で消えてゆくのではないかという懸念もあった。そんな不安を払拭するようにその後順調に作品を重ね、今、ベストテンの常連監督になったのは大森立嗣の一ファンとして嬉しい限り。作品も初期の暴力への衝動が強いものから、幅広い内容、ジャンルの作品をこなすようになった。「日日是好日」は「セトウツミ」の系列の作品か。「セトウツミ」に倣って勝手にキャッチコピーを作れば「ただ茶道教室に通うだけの青春」。もちろん、茶道教室のシーンだけで構成された映画ではない。フェリーニの『道』にはじまり、『道』に終わる映画。茶道の知識も関心もない者が観ても楽しめる。茶道の基本の基本的知識を知ることが出来る。大森立嗣の脚本、演出は明快細心で無駄がなく、テーマが素直に伝わってくる。二十歳の大学生典子(黒木華)が母に勧められ、いとこの大学生美智子(多部未華子)と茶道教室に通うことになり、そこで茶道教室の武田先生(樹木希林)との出会い、茶道との出会いを通じて人生の大切なことを学び、成長してゆく。黒木華が20代から40代までを演じている。変わりゆく黒木華の成長していく姿を眺めるのも楽しく、共演の多部未華子を自分のお気に入り女優に置き換えて(例えば、広瀬すずや高畑充希)、樹木希林を奈良岡朋子にイメージして観るのももう一つの映画の楽しみかた。公式サイトの紹介文がいい。「世の中には、「すぐわかるもの」と、「すぐわからないもの」の二種類がある。「すぐわからないもの」は、長い時間をかけて、少しずつ気づいて、わかってくる。子供の頃はまるでわからなかったフェリーニの『道』に、今の私がとめどなく涙を流すことのように」。テーマをしっかり押さえ、余計な寄り道をせず、きっちりエンタメ作品に仕上げる大森立嗣の映画センス。「映画は選択と省略」(ルイ・マル)。

映画の勘どころを知っている監督だ。☆☆☆☆(☆5が満点)