実在した「総力戦研究所」を描いた2025年8月に放送のNHKスペシャル「シミュレーション 昭和16年夏の敗戦」のドラマパートに約40分の追加シーンを加えたのが本作である。、猪瀬直樹氏のノンフィクション「昭和16年夏の敗戦」を原案として創作されている。
エリートたちが日米開戦のシミュレーションを行い、開戦は無謀だと研究結果を内閣に報告していたのに戦争は始まってしまった。そんな日米開戦の戦前のエリートたちのシミュレーションの様子を描いたのが本作である。開戦後、シミュレーションの通り戦局は動き、敗戦に至った。シミュレーション外なのは二度の原爆投下による大量虐殺の被害だった。
賛否両論であるが、当時を考える意味でも、悪くない作品だと思う。少々演劇地味てるのが気になるが、もともとNHKスペシャルのドラマを拡張したものなので致し方なし。
個人的にはなかなか興味深く鑑賞できた。開戦について、好戦的な軍部に悩む東条英機の苦悩や、当時、戦争を煽り立てていた新聞と好戦的な大衆なども描かれており、いかに複雑な情勢だったのかが描かれている。しかし、結局、本作では開戦を「空気」(もともと指摘したのは山本七平)で処理しようとしている。物語上致し方がないものの、もう少し合理的な説明があったほうが良かった。
それにしても、撮影地にもなっている当時の洋風建築が良いなと思った。撮影地は、龍谷大学大宮本館、神戸大学六甲台本館、旧乾邸などだそうだ。
ちなみに、 初代所長である飯村穣中将は、劇中では悪役のように描かれているが、実際は、自由闊達な議論を尊重した人望の厚い人物だったそうで、直孫の飯村豊氏(元駐フランス大使)は、描かれ方が酷いとのことで、提訴している。「総力戦研究所の真実 ――歴史の法廷に立つNHK」という反論本も出しているので、あくまで映画はフィクションとして観るべきである。物語上、悪役は必要であり、また、陸軍の暴走として描きたかった思惑が垣間見える。
そして、歴史に「IF(もしも)」はないが、もし日本が開戦に踏み切っていなかったらどうなっていたのだろう?禁輸措置が緩和されていればいいが、もしかしたら禁輸措置が継続して、日本は資源が枯渇して、弱体化している中で欧米の植民地のようになっていたのかもしれない。それでも戦争の被害よりはマシなのだろうか。東南アジアはどうなったのだろう?欧米の植民地のままだったかもしれない。開戦の被害は現実だが、開戦しなかったらアジアがどうなっていたのかにも思いを馳せなければならない。人種差別が酷かった当時である。今の感覚で当時は語りえない。
★ 3.8 / 5.0
