2025年の朝日地球会議での講演・対談などから抜粋し、加筆・修正のうえ、まとめた一冊。パワーポリティクスに再帰した国際社会、AI時代の民主主義などについて、専門家が分析している。6割ぐらいはエマニュエル・トッドが占めている。その他、オードリー・タン、モニカ・トフト、佐橋 亮×錦田愛子×望月洋嗣の鼎談などが収録されている。本書にも収録されている講演(2025年)で、エマニュエル・トッドはアメリカについて「ベネズエラを攻撃するかもしれません」(p.31)と指摘している。ソ連崩壊、アラブの春、英国のEU離脱、リーマンショックなどを予見してきたトッドの鋭い先見性が本書でも光っている。

 

本書ではトッド氏は、宗教の衰退とニヒリズムという視点を紹介している。宗教は徐々に世俗化していくが、カトリックは宗教性が喪失しても、美しい宗教芸術は残り、美という感覚は残るが、しかし神と人間というシンプルな構図のユダヤ教やプロテスタンティズムだと、宗教が無くなるともはや社会規範が空洞状態となり、ニヒリズムに陥っていくという。特にこの傾向が顕著なのがアメリカなどの核家族・個人主義の国だという。宗教的な信仰や道徳を人々が共有することがなくなり、人々を統合する価値観が消滅したことで、個人がバラバラと存在するだけになってしまっている。宗教の道徳や倫理を喪失した結果として刹那的享楽性と好戦性の傾向が強まっているのではないか。

 

トッド氏の指摘は鋭く、アメリカとロシアを比較すれば、ロシアのほうが悪いと考えるかもしれないが、犯罪率が高く、医療へのアクセスが所得で制限され、人種差別も根深く残り、薬物が蔓延しているアメリカのほうが不安定なのだ。経済制裁でロシア経済は破綻すると思っていたが、実際には破綻しなかった。そもそもロシアは資源も豊富であるし、中国は反欧米、インドも中立であり、中東諸国・アフリカ・南米などにもロシアサイドの国は散見され、欧米諸国以外と貿易すれば経済力は維持できるのだ。それに滑稽なことにロシアの資源供給が制限されて、最も困ったのはドイツだった。アメリカもGDPでみれば大きな経済規模であるが金融等で実在の財ではなく仮想的な富であり、生産力は弱く、”砲弾の作れない超大国”とトッド氏は表現する。欧米諸国は認めたがらないが、もはや獲得領土からするとウクライナ戦争はロシアの勝利といっても過言ではないのだ。

 

トランプの発言には一貫性がなく、二転三転しており、非合理的である。トランプの側近は富豪ばかりであり、もはや民主制ではなく寡頭制である。金融が幅を利かせているため、製造業は衰退しており、”虚構の富”でGDPは大きくなっているだけであり、いつまでも続かないだろう。実際、経済学者の中にもドル覇権も2030年前半に終焉するという意見も散見される。トランプ大統領はイランの次はキューバを攻撃するとの指摘もあるが、もしかしたら対象は北朝鮮になるかもしれないし、台湾有事に乗じて中国と戦争するかもしれない。2029年までトランプ大統領の任期は続くが、国際政治経済がどうなるのか合理的には予想がつかない。ただ1つ言えるのは、米国覇権は揺らぎ始めているということだ。