伝説のピアニストのブーニン。2013年に突如として表舞台から姿を消し、9年の沈黙の後に復活を果たす。そんなブーニンと、傍らで彼を支えた奥様の榮子さんを追ったドキュメンタリー。

ブーニンは、父親もピアニストで、祖父はギレリスやリヒテルの師でもあるモスクワ音楽院の名教師ゲンリフ・ネイガウス。17歳でロン=ティボー国際コンクール(ピアノ部門)で最年少優勝、1985年に19歳でショパン国際ピアノコンクールでも優勝し、一躍ブーニンフィーバーを巻き起こしたピアニストである。ショパンコンクールの演奏はCD等で聴けるが、スピーディでキレのある音は何度聴いても感銘を受ける。特にワルツ第4番、革命のエチュードは絶品。

彼はなぜ表舞台から姿を消したのか知らなかったのだが、左肩に「石灰沈着性腱板炎」が発生し、左手が思うように動かなくなり、さらに左足を骨折し、治療したものの症状が悪化。左足を一部切除し接合する手術を行い、左足は残ったものの8cm短くなってしまったそうだ。劇中でも語られるが、足は体のバランスをとったり、指先から体重を鍵盤に伝えるのに重要であり、演奏への影響が大きい。そうした苦難を乗り越えての復帰だそうだ。ただ面白いもので、苦難を経たが故の音もあるもので、劇中に流れる味わい深い演奏は素晴らしかった(演奏者が満足いくものではなかったにせよ)。

ブーニンは奥さんが日本人なので日本語を少し話せるが、日本語で他愛もないコメントをするシーンがほほえましかった。彼が亡命した理由も初めて知ったが、当時、音楽院からコンサートを禁止されるなど、自由な演奏活動ができなかったことが原因のようだ。アシュケナージやアファナシエフなど亡命を余儀なくされた演奏家は多い。

本作では、ブーニンと関係がある人もインタビューに答えているが、個人的にはジャン=マルク・ルイサダさんのインタビューが興味深かった。日本人ピアニストも登場していたが、ブーニンが優勝したショパンコンクールで第4位入賞の小山実稚恵さん、ショパンコンクール第2位の反田さん、同コンクール第4位の桑原さん、ロンティボー優勝者亀井さんなど錚々たる面々で、非常に貴重な映像である。

個人的にはブーニンさんのご自宅の映像なども興味深く観させていただいた。ピアノはイタリアの名器FAZIOLIを使用されているんですね。

本ドキュメンタリーは、解説やインタビューはそこそこに、演奏をたっぷりと聴かせてくれるのが素晴らしい。ぜひ音響の良い映画館での鑑賞をおすすめしたい。音響坂本龍一監修の109シネマズプレミアム新宿で聴いたが、本当にコンサート会場にいるような臨場感を味わえた。機会があればぜひおすすめしたい。

復帰コンサートでの演奏をたっぷりと堪能できる極上の音楽ドキュメンタリーだった。

 

★ 3.9 / 5.0