ノーベル文学賞・ブッカー賞を受賞した日系イギリス人のサー・カズオ・イシグロの長編デビュー作。本小説でイシグロは、王立文学協会賞を受賞している。本作では長崎とイギリスが舞台であるが、カズオイシグロの生まれ故郷と育った場所であり、彼の人生とも一部重なる部分があったのかもしれない。カズオイシグロの作品は、時代の変化、追憶と喪失、郷愁、後悔、希望と諦念などのテーマを、落ち着いたタッチで紡いでいくのが特徴であるが、デビュー作でそれがよく表れている。
前半だけみると、現代と過去の回想が交互に描かれる、よくある展開だったのだが、ここにどこかサスペンス的な要素を盛り込んでおり、とても興味深く観れた。途中で、つじつまが合わない箇所や明らかな矛盾が出てきたときに混乱したが、あくまでこの話は主人公が記憶を語っているに過ぎず、「ある部分は辛い記憶を払拭するために無意識的に記憶が変わっているのかもしれないし、記憶が意図せず混ざったのかもしれないし、一方で、意図的な嘘も含まれているのかもしれない」と気が付いて、物語の奥深さや映像の細かい描写力に驚いた。ただ作中では、どれが嘘で事実がどうだったのかは明かされないため、読み手によって解釈は異なることになるが、それが面白さである。現実でも、人生でどうであったかなんて語りかた次第なのである。
戦中と戦後の社会意識の変容、戦争の辛い記憶、当時の女性のおかれた抑圧的環境と女性の自立、親子間の軋轢、将来の可能性への期待と挫折、喪失、悔恨など、様々な要素が絡み合った複雑で重層的な作品だった。
広瀬すずと二階堂ふみ主演ということで、ファンの方が観に行かれると思うが、少々内容は重いし、難しい点は踏まえて鑑賞に行かれた方がいいと思う。
そしてどうでもいいことだが、日本でのシーンが、いかにもセットぽかったり、CGっぽく少し映像がチープに感じられたのが少々残念だった。
★ 3.9 / 5.0
