新NISAが開始されたが、その際に人気を集めたのがS&P 500インデックスファンドなど、米国株への投資である。トランプ関税による株価暴落で慌てて損切りした人も少なくなく、投資初心者には手痛い洗礼となった。ただトランプ大統領は関税の発効を延期するなどして株価は回復している。投資において重要なのは狼狽売り、パニック売りの回避である。高値で買って、暴落時の安値で売却すれば当然損になるだけだ。
ただYoutube等でも米国株投資を推奨する投資系ユーチューバーが多いが、個人的には米国経済が今後も好調が20~30年と続くとは思えない。覇権国の寿命は100年前後とはいえ、アメリカだけ例外的に200年程度続いても不思議ではない(歴史は複雑な人間活動の集積の結果であり不変の法則はない)が、ただ富裕国だったアルゼンチンも政策ミスで没落し、米国と覇権を争っていたソ連もあっという間に崩壊したことを考えると、米国の覇権が徐々に終焉する可能性は否定できない。その可能性を考えると、米国投資一本打法はその点でリスキーである。
世界最大のヘッジファンドのブリッジウォーター・アソシエイツの創業者のレイ・ダリオは、自身の著書で変わりゆく世界秩序と、覇権国の隆盛を歴史と経済学の観点で分析し、米国覇権の終焉を予測している。移行の時期は30年代前半頃と見込んでいるが、ただ彼の次の覇権国候補の中国は、急激な少子化と不動産バブル崩壊で経済は疲弊しており、そもそも経済力も公表されたGDPの値が正しいかも分からない。個人的には共産主義的な管理経済は成長に限界があり、また、中国の傲慢な外交は軋轢を生んでおり敵があまりにも多く、覇権国にはなりえないと思う。規模的に覇権国足りえるのはインドだと思うが、まだまだ経済的には貧しく、覇権国になるには半世紀以上かかるだろう。いまは米国に投資が一極集中しているが、トランプ政権の政策の不確実性を考えると、今後は徐々にEU諸国・日本・新興国等に投資が流れ、国際社会は多極構造になると思う。
それにしても米国のトランプ関税は突然やってきたように見えるが、エマニュエル・トッドの予測の先見性はすごいと思う。彼によると自由貿易を推し進めると、労働力が安い国の製品との価格競争となり、先進国では労働コストの圧縮が起きる。結果的に先進国では単純労働者の賃金は押し下げられ国内では需要不足が起きてデフレ化し、また、格差社会が進展し、国内が分裂してしまうという。ウクライナ問題等の問題もあり、デフレ化ではなく現在インフレが問題となっている点は異なるが、それ以外の見立てはその通りだと思う。アメリカの製造業は低調であり、失業したプアホワイトが激増している。これは先進国でも共通で起きていることだ。トッドは、トランプの保護主義的な政策は誤りではないとしつつも、しかし、もはや米国には優秀なエンジニアが不足しており、寡頭政治化し、階級も固定化され勤勉さも失われており、手遅れだという。
レイダリオの説に戻るが、彼の見立てだとビッグサイクルは18段階あり、これが繰り返されているという。すでに格差社会と債務膨張は実現しており、トランプ政権の誕生は国内の混乱ともいえ、すでに15段階にあるという。次は基軸通貨の地位喪失だが、すでに世界主要国における外貨準備のドルはここ20年で減少しており、またトランプ政権の政策とも相まってドル離れが加速しつつあるから、これも実現し得よう(16段階目)。次のステージはリーダーシップの低下であり、その次が内戦または革命であり、これにより覇権は終焉する。米国の債務の増大、麻薬の蔓延、異常な格差社会、寡頭政治などをみると、米国内部は疲弊しており、また、すでに米国は自己の覇権を維持するコストに辟易しており、国際政治への不関与の傾向が強い。レイダリオの見立ては概ね正しいと思う。歴史は繰り返すのだ。ただ彼の見立てて通りにいかないとすれば、次の覇権が中国ではなく、多極構造化するという点だ。
ここ数十年の米国株の高騰をみると、米国株投資は合理的であるが、大きな歴史的な潮流を踏まえると、米国株一本打法は危険だろう。ドル資産のトリプル安が発生しているが、短期で終わればいいが、これがトレンドの変わり目で、「炭鉱のカナリア」だったかもしれない。2030年といえば遠い未来の感じがするが、もう5年後の話である。

