ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞作。素晴らしいドキュメンタリー。
オピオイド系鎮痛剤「オキシコンチン(OxyContin)」の製造元である米製薬大手パーデュー・ファーマは、2019年に経営破綻。この大手企業の創業家はサックラー一族であり、米国有数の大富豪であった。この一族は美術館や大学に多額の寄付を行い、様々な機関にその名を冠していた。そうしたサックラー一族に”NO”を突き付け、デモ活動を行った写真家ナン・ゴールディンのドキュメンタリー。ナン・ゴールディンの人生と、彼女の抗議活動が交錯しながらドキュメンタリーが進むが、その推進力には目を見張る。見ごたえのあるドキュメンタリーだった。
あまり日本では報道さえていないが問題の薬の中毒により60万人以上が死去しており、全米を揺るがしている。映画では会社は破産したが、サックラー一族は破産を免れていると描かれているが、実は2024年6月に最高裁がこの一族を保護する和解案を無効化しており、一族についても責任追及が継続する見込みとなっている。
それにしても劇中で流れるナン・ゴールディンの写真は素晴らしかった。「性的依存のバラッド」シリーズ(1978-86)は、見応えがある。これは彼女が18歳の頃から撮りためた約800枚のカラー写真から18点を選んで構成した作品。自己や友人、恋人の日常を主題に、LGBT、ドラッグ、HIV、DVなど、依存関係にありながらも孤独感に蝕まれ、刹那的に生きるカオスな当時を見事に描写している。
養子に出された過去、セクシャリティに苦悩し自殺した姉、ドラッグ、DVなど、様々な要素が現在の彼女を形作ったのだと思う。そして諦念の中でも消えなかった生への衝動はいつしか彼女を突き動かし、社会的な運動へと駆り立てた。ドラマチックで劇的な人生、そこには常に死が付きまとう。彼女の過激な抗議活動は、1980年代のエイズ危機下での政府の無策に抗議する「ACT UP」活動にインスパイアされたらしい。
人はいつかは死ぬ。これは避けられない。問題はどう生きるかである。傷ついたからこそ、もがいたからこそ生まれる他者への慈愛。小さなムーブメントが大きなうねりを生むかもしれない。諦念の向こうにある希望。人生へ深い示唆を与えてくれる傑作だ。
★4.2 / 5.0
