ラヴェルの名曲「ボレロ」を軸に彼の半生を描いたフランス映画。伝記映画は単調でつまらなかったり、逆に過度な誇張があったりするが、本作は落ち着いた描写で彼の音楽への考え方等も絡めて描かれており興味深く観れた。ラヴェルがローマ大賞に5回落選したことや、彼の母親がバスク人でお父さんがスイス人だったという背景なども知っていると楽しめると思う。晩年の認知症のような症状になっていく様もいやにリアルだった。ただ時系列が遡ったりするのでやや分かりにくい。
ちなみに、多くの登場人物が出てくるが、舞踏家のイダ・ルビンシュタインはベルエポックのミューズとして知られ、また多くの芸術家のパトロンでもあった。同じくミシア・セールは裕福でサロンを主宰した人物であるが、ルノワールにも描かれ、またプルーストの「失われた時を求めて」の登場人物であるヴェルデュラン夫人のモデルとしている。マルグリットが誰か分からなかったのだが、ピアニストだったマルグリット・ロンのようだ。ロン=ティボー国際コンクールに名前を残している。なお、左手の協奏曲の話の際にヴィトゲンシュタインという名前が出てくるが実在のピアニストである。戦争で右手を失っている。ちなみに、哲学者のヴィトゲンシュタインは彼の兄弟である。
工場で新曲の「ボレロ」について語るシーン興味深い。工場は延々と機械が同じ動作を繰り返す。こうした延々と反復する音は産業革命以後に生じたものである。ボレロはそうした反復性にインスピレーションを得て作曲したと描写されているが、当時としてはやたらと斬新だっただろう。反復性という点で、ミニマルミュージックのはしりだったともいえるのかもしれない。
ただ現代におけるボレロの演奏シーンが映画の序章と終盤に配置されているが、ボレロが今日でも演奏され続けていることを示したかったのだろうが、違和感はぬぐえなかった。
ラヴェルはもちろん、ベルエポック時代のフランスに興味があればおすすめしたい。サロンの雰囲気などでも楽しめるだろう。
★ 3.9 / 5.0
