さて、毎年、GW恒例の有楽町・丸の内エリアで開催の「ラ・フォル・ジュルネ」に行ってきた。今回は抽選チケットにも応募したりして、3日間にわたりクラシック音楽を堪能してきた。コンサートはしごして講演聴いてとかなり疲れた(;^ω^)。それにしてもチケットは完売なものの、フリーエリアの客入りや出店数はコロナ前に比べると少々寂しさもある。コロナというより実質賃金の減少による出控えの影響かもしれない。ただこれぐらいの混雑状況が適正値なのかもしれない。さて、私の拝聴した演奏や講演会は次のとおりである。正直言うと、もっと聴きたいコンサートや講演などもあったが、チケットが抽選だったり、時間的な制限や体力面で下記が限界だった。

 

■コンサート

5月3日

〈精密な音は愛と共に 自らのルーツへ〉

(出演陣)萩原麻未(p) 、神奈川フィルハーモニー管弦楽団 、齋藤友香理(指揮) 

(曲目)ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ 、ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調 、ラヴェル:ボレロ

[感想]管弦楽版の「亡き王女のためのパヴァーヌ」がしんみりと染み渡ってきてよかった。次いで、ラヴェルのピアノコンチェルトであるがピアニストの萩原麻未さんは、ジュネーブ国際音楽コンクールのピアノ部門で日本人として初優勝したことで有名である。本当に豊かな音楽性と煌びやかで色彩豊かなピアノの音色が素晴らしい。

 

〈豪壮、華麗、アーティストたちの 覇気!〉

(出演陣)亀井聖矢(p) 神奈川フィルハーモニー管弦楽団、齋藤友香理(指揮) 

(曲目)ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージン ガー」第1幕への前奏曲、チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 op.23、アンコール:リスト「ラ・カンパネラ」

[感想]亀井聖矢さん(ロンティボーコンクールのピアノ部門優勝者)の生演奏を聴くのは二度目だが、彼はすごい。瑞々しくフレッシュで力強く情感豊か。拍手喝采でスタンディングオベーションで、思わず、私もスタンディングオベーションに参加。さらにアンコールのでリストの「ラ・カンパネラ」を演奏していたが、こちらが極上の音色だった。超絶技巧もさることながら、前回聴いた時より感傷的でエモーショナルで私の琴線に触れた。個人的にふと最近亡くなったフジコヘミングさんを思い出した。

 

5月4日

〈研ぎ澄まされたピアノでショパンは踊る〉

(出演者)アブデル・ラーマン・エル=バシャ(p)

(曲目)ショパン:4つのマズルカ op.24、2つのポロネーズ op.26、3つのマズルカ op.59、ポロネーズ 第6番 変イ長調 op.53「英雄」

[感想]エル=バシャさん(エリザベト王妃コンクールピアノ部門優勝者)の演奏は毎度同じ表現をするが、本当に「小川のせせらぎ」。自然体で演奏が心地よく流れていく。シルクの上を真珠が転がっていくように滑らか。春先に気持ちが良く吹き抜ける一陣の風のよう。本当に名演。

 

〈心とろかすロマンティック・ コンチェルトたち〉

(出演陣)ナタナエル・グーアン(p)* マリー=アンジュ・グッチ(p)** 東京21世紀管弦楽団 キンボー・イシイ(指揮)

(曲目)ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲op.43* ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 op.30**

[感想]ナタナエル・グーアンはブラームスコンクールの優勝者。「パガニーニの主題による狂詩曲op.43」を弾いていたが、難曲であるが落ち着いて弾きこなし、シックでジェントルな演奏だった。ピアノコンチェルト第3番を弾くのは早熟の天才マリー=アンジュ・グッチ。7か国語を話し、16歳で修士課程を修了し、その後も大学で研鑽を積んだそうだ。著名コンクール歴はないが、いくつかの国際コンクールで優勝歴がある。非常に雄弁な演奏だったと思う。知的にコントロールされており、輪郭がはっきりした演奏で、とても聴きやすかった。ソロコンサートも訪れてみたいなと思った。

 

5月5日

〈Vive 1685! バロック名曲+ベートーヴェン 晩年のソナタによる祈りの時〉

(出演者)アンヌ・ケフェレック(p) 

(曲目)J.S.バッハ/ブゾーニ:コラール前奏曲「来たれ異教徒の救い主よ」 BWV659a、ヘンデル/ケンプ:メヌエット ト短調 HWV434、J.S.バッハ/ヘス:コラール「主よ、 人の望みの喜びよ」 BWV147、ベートーヴェン:ピアノ・ ソナタ第31番 変イ長調op.110 

[感想]アンヌ・ケフェレックさんの演奏は初めて聴いたが、気品があり、格調高い。誠実に曲に向き合い音を紡いでいく。目を閉じるとヨーロッパの教会にいるかのような錯覚に陥る。ベートーヴェンのピアノソナタの前にアンヌ・ケフェレックさんによる曲への思いが語られたが、みんな幸せにというメッセージが込められているのではないかということだった。本当に魂が浄化されるような名演だった。真摯に敬愛したい演奏だった。

 

〈ハジけて究めて、モーツァルトの 天才ここにあり〉

(出演陣)アンヌ・ケフェレック(p)、オリヴィエ・シャルリエ(vl)、川本嘉子(va)、東京21世紀管弦楽団 中田延亮(指揮)

(曲目)モーツァルト:ピアノ協奏曲第9番 変ホ長調 K.271 「ジュナミ」 モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏 交響曲 変ホ長調 K.364

[感想]私の今回のラフォルジュルネの最後のコンサートはモーツァルトだったが、やはりモーツァルトは良い!心地よくとてもリラックスできた。モーツァルトは人を元気にする不思議な効果があると思う。明るい気分にしてくれる。「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏 交響曲」はオリヴィエ・シャルリエさんと川本嘉子さんの掛け合いが絶妙で楽しめた。

 

■マスタークラス

【講師】アブデル・ラーマン・エル=バシャ(ピアノ)
【受講生】鈴木愛美(ピアノ) 東京音楽大学大学院修⼠1年
【曲目】モーツァルト:幻想曲 ハ短調 K.475

[感想]東京音大の大学院で学ぶ鈴木愛美さんへのエル=バシャさんへの公開レッスン。エル=バシャさんの物腰柔らかで気品のある語り口が素晴らしい。「(強弱記号)ピアノは弱さの表現ではない」等、興味深いTIPSを聞けた。

 

【講師】ジャン=マルク・ルイサダ(ピアノ)
【受講生】鶴原壮一郎(ピアノ) 東京芸術大学4年
【曲目】ラヴェル:夜のガスパール から「スカルボ」

[感想]ルイサダさんが人気なのはお人柄にあるなと思うユーモアにあふれたレッスンだった。ルイサダさんのコンサートは抽選に漏れたが、公開レッスンは拝聴できて良かった。それにしても芸大生レベルでもやはり一線で活躍するピアニストからすると、こんだけ指摘するポイントが出てくるのかと驚かされる。曲の入りの数小節で20~30分ほど。演奏の姿勢や手の形、関節が柔らか過ぎるなど。来日経験も多いので日本語を少々勉強されたようで、ルイサダさんが「(手が)フニャフニャ」と言っているが面白かった。ルイサダさんは映画好きであるが、黒澤明の「蜘蛛巣城」で例えているのが興味深かった。ピアノ演奏は音楽だけ勉強しているだけでは完結しないのだ。

 

■講演会

「「中世の音楽と楽器について」
アンサンブル・オブシディエンヌ(中世の古楽器アンサンブル)

[感想]中世の楽器と音楽についての生演奏を交えつつ説明があったが、面白かった。現代的な楽器のような精巧さはないが、古風な音の響きがじんわりとくる。

 

音楽におけるナショナリズム“国民楽派”〜お国柄はどう音楽化されたか?」
小室敬幸(音楽ライター・映画音楽評論家)

[感想]音楽史に登場する「国民楽派」についてのお話である。民族主義などは近代的な概念であり、主に政治学分野で発達した概念であるが、それがいかに音楽分野に波及していったのか、各国の実例を交えつつ説明していた。

 

「モーツァルトのルーツ、モーツァルトがルーツ」
片山杜秀(慶應義塾大学教授)

[感想]モーツァルトのルーツについて当時の社会情勢やモーツァルトの気質等のお話。モーツァルトは言語を意味ではなく音でとらえて、それを執拗にいじるダジャレを手紙等でやっており、この言葉の意味の構築よりも音で先にとらえることが彼の特徴であり、また、幼児性から抜け出せなかった。これらにより無垢さや音の連なりの絶妙な操作が生まれ、モーツァルトらしさになったのかもしれないという。

 

東京国際フォーラムは何度来ても見事だなと思う。来年はどんなテーマで開催されるのだろうか。今から楽しみだ。