聴覚障害を持ちながら演奏活動を続け、60代後半から人気を集めたピアニストのフジコ・ヘミング(本名=ゲオルギー・ヘミング・イングリット・フジコ)さんが4月21日に死去した。92歳だった。ヘミングさんの財団が2日に発表した。膵臓(すいぞう)がんで療養を続けていた。葬儀はすでに近親者で行い、お別れの会開催を検討しているという。ー ロイター

 

フジコ・ヘミングさんは、1999年にNHKのドキュメンタリー番組でその半生を取り上げられことで注目を集め、ファーストアルバム「奇蹟のカンパネラ」は200万枚を超える大ヒットを記録したピアニストである。高校時代と、去年の6月にヘミングさんのコンサートに訪問しているが(当時記事:「フジ子・ヘミング ピアノコンサート」(サントリーホール))、逝去される前に生演奏を聞けてよかった。

 

ヘミングさんの演奏は19世紀的なロマンティズムを感じさせる情感あふれる演奏だった。超絶技巧のアスリート的なピアニストではなく、古き良きロマン派の芸術家の風情があった。即時的で即物的な社会でヘミングさんの演奏は極めて貴重だったように思う。昨今のSNSやネットにおける不毛な技巧偏重の傾向を見ると、ふと、高尚なクラシックのピアニズムはどこへ?と感じてしまう。

 

また、ピアニズムの一つの時代が終わっていく。ここ数年でも、フー・ツォン、中村紘子、ラドゥ・ルプ、ポリーニなど、巨匠が次々と亡くなっているが歴史は日々紡がれていく。新しいピアニズムを作るのだという気概が必要なのかもしれない。人の生命は限りあるが、重要なのは先人の偉業を語り継ぐことだろうと思う。人類の歴史は大河だが、そこにしかと流れる個人のせせらぎを感じることが重要なのだ。