本日は仕事終わりに初台の東京オペラシティへ。牛田智大さんのピアノリサイタル。牛田智大さんは、クラシックの日本人ピアニストとして最年少12歳でCDデビューしたことで当時は話題を集めた。子供とは思えない成熟した演奏で好評を博した。「二十過ぎればただの人」とも言われる音楽界であるが、着実にキャリアを積んでおり、第10回浜松国際ピアノコンクールで、日本人歴代最高第2位、併せてワルシャワ市長賞と聴衆賞を受賞している。浜松国際ピアノコンクールは実は日本のピアノコンクールであるが、日本人優勝者はまだ出せていない。

 

なお、浜松国際ピアノコンクールは若手登竜門で、歴代優勝者にはショパンコンクール優勝者となったチョソンジン、ショパンコンクール第2位のアレクサンダー・ガジェヴがおり、第2位に入ったラファウ・ブレハッチはショパンコンクール優勝者、同じく第2位入賞だった上原彩子はチャイコフスキーコンクール優勝者となった。

 

前回のショパンコンクールでは、予備予選免除で挑み、素晴らしい演奏だった。私もかなり推しており、上位入賞ではないかと思っていたが、しかし、二次予選で敗退だった。YoutubeでLive配信を観ていた人たちは「なぜ?」と疑問であったが、会場で聴いていた人のコメントは一様で、「うるさい」というものだった。審査員のインタビュー記事でもケヴィン・ケナーが「攻撃的」と形容するほどだったので、会場の広さを把握しきれていなかったのだろうかと思われる。前置きが長くなったが、今夜のプログラムは下記である。

 

(前半)

モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第4番 変ホ長調 K. 282
シューマン:クライスレリアーナ Op. 16

 

(後半)
ショパン:即興曲 第1番 変イ長調 Op. 29
ショパン:即興曲 第2番 嬰ヘ長調 Op .36
ショパン:即興曲 第3番 変ト長調 Op. 51
ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 Op .58

 

(アンコール)

ショパン:24の前奏曲 第4番 Op.28

シューマン:ピアノソナタ 第1番 第2楽章 Op.11

 

演奏は全体的に上品で格調高い。知性的で曲の奥深い部分にまで迫ろうとする真摯な態度が全体を通して感じられる。もともとデビュー当時の演奏を聴いても、小中学生とは到底思えないような知的で情感ある演奏だったが、体格も良くなり、スケール感も出て大人の演奏になっている。同世代の亀井聖矢さんも同じく気品があるが、亀井さんのほうが明るくフレッシュで、音も粒立ちた良く快活な印象がある。一方で牛田さんは真面目で厳格な印象を受ける。当然、どちらが良いという話ではないが、牛田さんの曲風はショパンというより、ベートーヴェンとかブラームスとかを弾いた方が様になるのではないかと個人的には感じる。

 

牛田さんは素晴らしい音楽性の持ち主であり、大変素晴らしい演奏なのであるが、ただ若干盛り上がりに欠けた感じになってしまったと感じた。スタンディングオベーションもない。疲れているのだろうか。または演奏の在り方に悩んでいるのだろうか?おそらく次回のショパンコンクールも考えているだろう。または別の国際ピアノコンクールを考えているのかもしれない。しかし、ここまで活躍している中で、これ以上のコンクール歴は必要だろうか?彼はもう24歳であり、コンクールを狙うには若いとはいえない。別の理由かもしれないが、どこか決めきれない迷いのようなものを演奏から感じてしまった。まだ若い。ぜひ独自の演奏スタイルを確立し、演奏家として成熟していってほしいものである。大変素晴らしい演奏家である点は疑いない。