ドイツの2023年の名目GDP(国内総生産)が4.4兆ドルとなり、日本のGDPが世界4位に転落することが濃厚になった。ドイツ経済は低迷しているが、外国為替が円安になり日本のGDPがドル建てで目減りする。00年にはドイツの2.5倍あった日本のGDPが逆転されるのは、金融緩和下で生産性の向上が滞ったことを映す。-日経新聞
名目GDPでなんと日本が世界第4位に転落したそうだ。日本経済転落についての悲観的な言説が散見されるが、実際のところそこまで悲観するようなことだろうか?
まず、実は円ベースでは日本のGDPは過去最高を記録している。あくまで名目GDPで世界第4位に転落したというのは、米ドルベースでの話である。政策的に円安誘導しているので、ドル換算で日本のGDPが目減りするのは必然であり、そこまで悲観するような話ではない。今は1ドルが150円であるが、1ドル100円で計算すれば、日本のGDPは世界第3位のままである。ただの為替の問題に過ぎない。
そして、名目GDPはインフレ率を考慮していない。つまり、ある国の物価が2倍になれば、その国のGDPは2倍となる。インフレな国ほどGDPは上昇しやすいのだ。ドイツはインフレが日本より高いので、名目での比較ではドイツが高く出やすい。インフレ率が異なる国同士で、いちいち名目GDPで比較して一喜一憂しても仕方がない。インフレ率を加味する実質GDPの方が経済力の実態を反映しやすい。
だいたいドイツ経済は全く好調ではない。英国エコノミスト誌が”Is Germany once again the sick man of Europe?”との記事で、ドイツ経済の低迷を指摘している。”The sick man of Europe”とは、「ヨーロッパの病人」との意味で、かつで東西ドイツ統一後の経済が低迷するドイツを意味する造語である。そもそもドイツが病人から復活したのは2000年代後半で、そこから自国経済力に比して不当にユーロ安を享受して経済成長したドーピング経済に過ぎない。中国へと媚びたが、中国経済が急失速でドイツ経済も巻き込まれており、さらにグリーンエコノミーだの環境に配慮した結果、電力コストなどの上昇で経済をひっ迫させている。
日本悲観論がメディアで散見されるが、そもそも経済は周期性があり、米国も経済停滞していた時期が当然ある。現在では100憶を超える物件もあるニューヨークであるが、30年前はエイズやらドラッグが蔓延する退廃的な街だった。そこから復活していき、リーマンショックではウォール街の終わりともささやかれたが、再び持ち直している。ある時点の傾向がそのまま続くとは限らないのだ。
実際、東京証券取引所に上場する株式の合計時価総額(ドル建て)は、中国の上海証券取引所を3年半ぶりに上回り、アジア首位に返り咲いた(LINK)。共産主義国家などは国民一人当たりGDP1万ドルあたりで停滞したり、中進国の罠にはまりやすいが、中国も例外ではないだろう。中国は独裁色を強めているので、香港・上海・北京などから急速に外資が撤退しており、さらに不動産バブルも崩壊の予兆があり、中国経済はこのまま停滞だろう。台湾有事も重なれば中国は間違いなく自滅の道である。
5~6年前ぐらいは中国が米国を経済力で追い抜くという予測もあったが、もはやその可能性は低い。ただ日本経済悲観論に陥る前に国際情勢・政治・経済について冷静に判断できる思考能力が必要である。
