マーティン・スコセッシ監督が描くアメリカの忘れられた歴史を描く206分の長編映画。3時間超で観ようか迷ったが、観てよかった。土地を追われ、ようやく定住したオクラホマで暮らすオセージ族だが、その土地からたまたま石油が取れたことで巨万の富が転がり込み、世界でも最も裕福な部族と言われるほどに豊かな生活を送る。しかし、その富に悪徳な白人が群がり、本作で描かれる事件へとつながっていく・・・。

本作は、米国で2017年にベストセラーとなったデイヴィッド・グラン氏のノンフィクション小説「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生」が原作。FBIの設立の一因ともなったが、長らく忘れられていた事件である:つまり本作はほぼ実話である。FBIの初代長官はエドガーだが、奇しくもイーストウッドの映画「J・エドガー」で主人公を演じたのもディカプリオであり、結果的に絶妙な対比となっている。

 

 

本作はもともとディカプリオは、今回の事件を追及する捜査官の役だったそうだが、それではよくある白人の英雄話になってしまう。そこでディカプリオをあえて悪役側のポジションとしたそうだ。結果的にネイティブアメリカン(補足:映画では当時の一般的な呼称として”インディアン”をあえて使用していたが個人的に好きな呼称ではないのでネイティブアメリカンという)と白人の複雑な関係性やアメリカ建国の暗黒の側面を掘り下げることに成功している。最初はある一族の物語と思わせて、登場人物に共感させつつ、徐々に描いている事件の大きさが広がっていく展開はさすがである。

映画で観ていて若干説明がないと分かりにくいのが、後見制のところである。オセージ族は莫大な収入があったが、財務管理ができないだろうという偏見から、自分の管理能力を証明できない限り、後見人をつけることを白人側が強制したのだ。映画でいちいちオセージ族の人がお金を引き出すのに白人のところを訪れるのは無能力者とされていたためだ。逆に後見人がついていないオセージ族は莫大な富を自由に使えたので、そうしたオセージ族に白人が懇願する様子も描かれている。ちなみに、酒を密造しているシーンがあるが、禁酒法の時代だったからである。

本作だと、裕福なネイティブアメリカンと、それに群がる白人という二項対立とも思われがちだが、黒人問題もさりげなく描かれており、さらには白人内の問題もそれとなく言及されている。アメリカは白人優位といわれるが、白人内でもジャガイモ飢饉の際にで米国に逃れたようなカトリックのアイルランド系は下に見られている。イタリア系も映画「ゴッドファーザー」でも描かれているように、貧しく無学な移民集団というステレオタイプが存在する。本作では「KKK」が登場するが、白人は優位であるという幻想と、裕福な非白人もいるという現実のはざまで、その鬱憤をはらしたいという需要を「KKK」が引き受けたのだろうし、その社会的土壌を垣間見せてくれた。

それにしても、かなり長い作品であるが、随所にさりげなく聖書の名言や逸話などが散りばめられていたり(ヨブ記のくだり等)、また、ネイティブアメリカンの歴史などの背景知識がないと、ただ事件の展開を追うだけになってしまう(かくいう私も特に米国史に何ら詳しいわけでもない・・・)。人種対立、宗教問題、近代化問題(発達史観)など語ろうと思うと相当なリサーチと文量が必要である。非常に奥深い作品で様々な点に注意して観ることをおすすめしたい。ちなみに、オセージ族は保留地で暮らしており、過去の問題は現在でも一部で尾を引いているようである。本作は今日に続く問題をはらんでいたりする。本作は米国に興味がある人には強く鑑賞を推奨したい。

 

★ 4.3 / 5.0