高級ブランド「COACH(コーチ)」や「ケイト・スペード」を傘下にもつ米タペストリーは10日、英高級ブランド「ジミー・チュウ」などを展開する米カプリ・ホールディングスを買収すると発表した。買収額は約85億ドル(約1兆2300億円)。経営資源や顧客基盤を集約し、再編が進む高級ブランド市場の競争激化に備える。ー 日経新聞

 

COACHやケイト・スペードなどを擁する米国のタペストリー社が、ジミー・チュウやマイケルコースを擁するカプリHDを買収するそうだ。タペストリー社は、もともと社名はCOACHだったが、ケイト・スペードなどを買収し、ブランドグループ化を目指して社名を変更していた。これにより「COACH」「ケイト・スペード」「スチュアート・ワイツマン」「マイケル・コース」「ジミー・チュウ」「ヴェルサーチェ」が同じグループになった。

 

ちなみに、高級ブランド品業界はかなりコングロマリット化が進んでおり、最大なのはベルナール・アルノーが率いる「LVMH」で、75のブランドを抱えている。ルイ・ヴィトン、FENDI、ディオール、ロエベ、ジバンシーなどのラグジュアリーブランドがLVMHの手中にある。これに次ぐ売り上げ規模が「ケリング」で代表的なブランドはグッチ、サン・ローラン、アレキサンダー・マックイーン、バレンシアガ、ボッテガ・ヴェネタなどである。そして三番手に、カルティエ、ダンヒル、ヴァンクリーフなどが属する「リシュモン」がつけている。これらは全て欧州の会社であるが、ここにきて四番手として、カプリを買収したアメリカの「タペストリー」が食い込んできた。タペストリーとカプリを合算しても実はエルメスのほうが売り上げが多いが、エルメスはほぼ単体のブランドなので、ブランドグループとしてはタペストリーが第4位ということになる。

 

2022年度のラグジュアリーブランド各社の売上高は次の通り。

LVMH:約12.5兆円
ケリング:約3.2兆円
リシュモン:約3.1兆円
エルメス:約1.8兆円

タペストリー+カプリ:約1.7兆円

 

なぜブランドがグループ化するかといえば、運送費にしても広告出稿にしても出店するにしてもボリュームディスカウントを効かせることができるからだ。デパートのテナントでも多数のブランドを進出できるとなれば、良い立地を確保できるなど、強い交渉力を持てる。さらにいうと、技術をグループ内で共有できることも大きい。ルイ・ヴィトンはもともと鞄メーカーであったが、現在では香水、時計、プレタポルテも展開する総合ブランドになっている。ルイ・ヴィトンが時計をつくるさいに、タグ・ホイヤーの技術が活かされていたりする。ブランド間のシナジー効果が期待される。

 

それにしてもLVMH・ケリング・リシュモンなどラグジュアリーブランド界は欧州ブランドが多い。これは欧州の貴族社会の影響である。貴族は莫大な収入を服飾などに費やして、その結果、ラグジュアリーブランドが育ったのである。例えば、ルイ・ヴィトンはフランス皇室やロシア皇室に収めていたし、プラダは元イタリア王室御用達(戦後に王制廃止)、バーバリーはイギリス王室御用達、ロエベはスペイン王室御用達だった。そもそも上流階級相手の商売としてブランドは成長し、やがて中産階級の勃興により、徐々に裾野を広げていったのが現在のラグジュアリーブランドである。アメリカは貴族がいたことはなく実用主義的な国だし、日本は戦後に華族制廃止により上流階級が解体されて総中流化した。アフリカやアジアなどは植民地化されたり共産化したりして文化が断絶していたりする。貴族社会から大衆社会へ移行し、かつ、資本主義体制というラグジュアリーブランドを育成できる環境だったのが欧州だけだったのである。

 

そういうと、「COACHやマイケルコースなどもラグジュアリーブランドではないか?」という人がいるが、これらのブランドは「アクセッシブルラグジュアリー」(手頃な贅沢品)である。価格帯的にはやや高めだが、欧州のラグジュアリーブランドに比べれば割安で、そこそこ余裕がある中間層を主なターゲットにしている。米国には貴族文化がなかったので、途方もない贅沢の産物(悪く言えば無駄に高額)の真のラグジュアリーブランドが生まれる素地がなく、どちらかというと、費用対効果が高く、経済合理的な価格帯のブランドが育ったということである。

 

さてさて、このアクセッシブルラグジュアリーのグループがどう成長していくのかはなかなか見ものである。