【映画背景等】
「Winny」(Peer to Peer技術を応用したファイル共有ソフト)の開発者の金子勇氏が著作権法違反の幇助の疑いで逮捕され、一審で有罪になり、最高裁で無罪となった「Winny事件」を描いている。
本事件は、旧態依然とした権力組織が、新技術や新産業の芽を潰し、結果的に社会経済を停滞させ、1980年代はIT分野のトップランナーだった我が国を”IT後進国”に転落させてしまうきっかけの一つとなった。日本で新技術開発の環境整備が整っていれば、GAFAMのような巨大IT企業が日本で誕生していた可能性も高いが、後の祭りだ。
ソフトウェアを開発し、それを悪用された場合に、その開発者に責任追及を行うとソフトウェアの研究開発を著しく萎縮させる可能性があるが、警察・検察はこの無理筋な逮捕・起訴を強行してしまった。これは映画でも分かりやすい例で説明されているが、ナイフで事件が起きた場合に、そのナイフを作った人に責任追及を行うようなものである。これを許すと新しい発明も開発はリスキー過ぎて行いにくくなる。
映画では、「Winny」を通じて情報流出が起き、警察などの不祥事が明らかになったこともあり、報復的に行われたとほのめかしているが、権力側が世間を騒がした「Winny」の開発者を懲らしめたかったという幼稚な正義感もあると思う。
天才プログラマーの金子さんは最高裁で無罪を勝ち取るも、そのすぐあとに急逝している。この無駄な裁判がなければより良い共有ソフトウェアを開発していたことだろうと、悔やまれてならない。ご冥福をお祈りしたい。
(Winnyについての参考動画)※映画にも出てくる壇弁護士も出演している。
【映画の出来栄えについて】
ただごめんなさい、題材は最高に面白いのに、映画としての出来栄えは残念でした。。
・全体的に一昔前の映画を観ているような既視感溢れる演出が多くてところどころ寒かったです。
・プログラマーは片付いていない暗い部屋でカタカタとプログラムを書いているという貧困な映像描写はどうにかならなかったんだろうか(思わず失笑)。そして、警察の取調室あんな真っ暗なわけないでしょうに。。全体的に色調が暗くて単純に見づらいです。
・金子さんを演じる東出さんの演技もかなり疑問。エンドクレジットで金子さんが実際に話しているところ出てくるが、論理的で分かりやすく落ち着いて話されている。東出さんの演じる金子さんはあまりにも幼稚というか、言い方が適切か分かりませんが、アスペっぽ過ぎる。東大助教やってた金子さんをなぜこんな風に演じてしまったのか・・・。これも製作者側の貧困なステレオタイプ丸出しでちょっと失礼じゃないかと思う。。
・法律事務所の事務スタッフは女性だが、無知として描かれ(「幇助ってなんですかー?」とか)、その彼女に中年の男性弁護士が教えてあげるという男性優位な図式が平成通り越して昭和時代感がある。誰の趣味なんでしょうかね?
・西日本に住んでいたことないのですが、愛媛や大阪とかのキツイ訛りとか粗暴な感じとか、普段もあんな感じなんですかね?(絶対違うと思うけど)。製作者のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が出てると思う。
・愛媛県警裏金事件が出てくるが、要らなかったと思う。地理的に離れた愛媛県警の裏金問題がなぜ出てくるのか必然性がよく分からなかった。他にもWinnyの流出事故あったのになぜ愛媛県警の事件を持ち出したの?
・愛媛県警裏金事件を告発した警察官の部屋ですが、裸電球で昭和時代の部屋のようでした。実際に調査してそうだったのか、田舎の年配者の部屋はこんなもんだろうという偏見なのか。。
・過去の回想とかいいので、第一審の有罪がどのように最高裁でひっくり返ったのかを描いてほしかった。第一審が有罪としたシーンでもなぜなのか理由が一切言及されず疑問だけ残った。
【総評】
「ソーシャルネットワーク」みたいなアカデミー賞を取るようなスマートな仕上がりにできなかったのでしょうか・・・?題材は面白かったのに残念でした。ただ「Winny事件」を知るきっかけとしては良い映画なのでオススメだし、多くの人に視聴してほしい作品だけど、映画館でわざわざ観なくていいかも。。
★ 2.5 / 5.0