特別展「宝石 地球がうみだすキセキ」(国立科学博物館)へ行ってきた。「宝石」は宝飾品であるが、科学的には「鉱物」である。こうした鉱物としての宝石を展示したのが本展である。宝石と呼ばれる鉱石の作られ方から、宝石を用いた宝飾品まで幅広く展示されており、非常に勉強になった。
これは史上最大のダイヤモンド原石からカッティングされたカリナンダイヤモンドのレプリカである。本物は英国王室の王冠や王笏に使用されている。ロンドン塔に展示されており、大学時代に本物を見たことがあるが、本当に巨大なダイヤモンドで驚かされた。ただ意外とダイヤモンドは産出量が多く、工業用にも使用されている。ダイヤモンド業界はデビアスグループが支配しているので、デビアスが供給制限を行い価格を釣り上げている。ダイヤモンド”永遠の輝き”と言って結婚指輪の代表格の宝石だが、これもマーケティング戦略の一つで、需要を高める一方で、結婚指輪は転売されにくいので中古品としての流通確率を下げて値崩れを防いでいる。摩擦の硬度はサファイアより硬いが、靱性という割れや欠けに対する抵抗力では実はサファイアの方が硬い。
サファイアの話が出たが、ルビーも同じ鉱石である。「コランダム(酸化アルミニウム (Al2O3)」の結晶からなる鉱物)である。クロムの混入で赤色に発色しルビーと呼ばれ、鉄・チタンの混入で青色に発色してサファイアと呼ばれる。混入物によって様々に発色する(コランダム自体は無色透明な鉱物である)。一方、ダイヤモンドは、炭素(C)のみからなる鉱物で、当然、ダイヤモンドも炭素の一部が窒素と入れ替わるとイエローに発色したりする。ただ当然、炭素の結晶に過ぎないので、ダイヤモンドは人工的に作り出せる。技術も上がっており、ほぼ天然ダイヤモンドとは見分けがつかない水準となっている。錬金術は存在しないが、錬ダイヤモンド術は存在するのに、値崩れしないのは、供給制限を行ってるからだ。
大半の人はダイヤモンドとかルビーとかの”ネーム”に飛びついて高いお金を出すので、顕示的消費の対象となっている。他にも綺麗な鉱石は山のようにあるのに。例えば、ルビーとスピネルは長年混同されてきた(どちらも酸化アルミニウムだが、スピネルは(MgAl2O4)でマグネシウムが入っており、単屈折でより強い多色性がない)。イギリス王家の有名な宝石「ティモール・ルビー」も長年ルビーと言われていたが、科学的にはスピネルだと判明した。
思わず「おお」と言ってしまったが、巨大宝石(巨大鉱物)である。まぁ、画像だとあまり輝きが分からないが、本物は非常に美しく輝いていた。ネットでなんでも調べられる時代であるが、やはり本物の持つ魅力には程遠い。
上記は撮影可能エリアでの撮影だったが、第五章の「宝石の極み」コーナーは撮影不可だった。だが、本展示会の目玉はここだと思う。こちらのサイトや次の動画で第5章の画像もみれる(LINK)。
第5章では世界各国の宝飾コレクションを展示しているが、イギリス・フランス・ロシア・イタリアなどの皇室・王家・貴族の宝飾品は目を見張るものがあり、現代の宝飾では考えられないほどに豪華絢爛で、かつての栄華が偲ばれる(だからこそ農民の反感を買い、ロシアやフランスでは革命やらが起きて廃位されたりしたのだが。イギリスが王室・貴族が残ったのは早くにマグナカルタを制定して王の権限を制限したことで反感が少なかったと)。
ちなみに、世界に存続する皇室・王室は、26にとどまる(ルクセンブルク・リヒテンシュタイン・モナコの小国を含む)。このうち人口5000万人を超す大国の皇室・王室は、日本の天皇家、タイ・チャクリー王朝、イギリス・ウィンザー朝の3つしかない(人口1憶を超す大国では皇室・王室を戴くのは日本のみであり、皇帝格を戴くのも日本のみである)。タイ王室は、世界最大のダイヤモンドのゴールデン・ジュビリーを保有していたりする。本展示会で、マールバラ公爵家の宝飾品も展示されていたが、マールバラ公爵家といえば、分家にスペンサー伯爵家があり、この出身がダイアナ妃であったりする。
科学的な側面から宝石に焦点を当てた展示会だったが、非常に興味深かかった。また前半は理系的な話が多いが、徐々に歴史等の文系の話に遷移していき、リベラルアーツな感じがして個人的には良い流れだったと思う。おすすめな特別展である。ただ宝石のマーケティングとかのビジネス的な話とかにも紐づいていたら面白かったと思う。自然科学・人文科学・社会科学揃ってこその教養である。