イギリスで最も栄誉ある文学賞ブッカー賞を受賞したアラヴィンド・アディガのベストセラー小説の映画版。インドの貧しい村出身の低カースト出身の青年バルラム・ハルワイは、裕福な一族の運転手となり、徐々に一族の信頼を得ていくが、ある事件をきっかけに彼は理不尽な現実に直面し、現状を打開するためにある犯罪計画を思いつくというストーリー。主人公が過去を回想するかたちでストーリーは進んでいく。サスペンス的な展開に思わず見入ってしまった。
本作は第93回アカデミー賞(2021年)脚色賞にノミネートされていたが、本当にNetflixの映画は映画市場で存在感を示してきている。Netflixでは韓国ドラマも人気だが、一方で日本ドラマの品質は悲しいものがある。事務所がゴリ押しする演技が下手くそなタレントでも辟易なのに、安上がりなセットに海外ドラマの模倣につまらない脚本など悲惨で観るに堪えない。Netflixで話題の日本のドラマだと「新聞記者」があるが、妄想と現実の区別がついていない創作ストーリーでただのプロパガンダドラマと化しており、これの原作が新聞記者というからさらに哀愁を帯びる(結局、自殺した財務省職員の遺族とももめているそう)。
話がズレたが、本映画は、善良な主人公が社会の仕組みや理不尽さを知る中で、自己の如何ともしがたい立場を理解し、それを打破するために悪事をもいとわない思考に陥っていく様には絶望感のある一方で、ある種の快感を覚える。インド社会に内在する汚職問題・カースト問題・女性蔑視・宗教問題・インドの古い風習などをストーリーに絶妙に描き込んでおり、その因習を打破しようとする主人公には共感を覚える。
世界最大の民主主義国のインドは急速に近代化しており、このまま成長が続けば数十年以内には日本を追い抜き米中に並ぶ経済大国になる。旧社会の風習が近代化によって脱皮していく様は各国にあるが、インドはこれからその過渡期を迎える。これからは茶色と黄色の人間の時代だという主人公の野望剝き出しの発言には、同じアジア人として若干の共感を覚える。インド人はすでに米国IT企業でも活躍しており、中国の次はインドがおそらく世界経済の主役になりえるだろう。一方で、悲しいかな、日本はIT化に遅れて、ただの老衰国家になっていく。。
当方はインドは2回ほど行ったことがあるが、急速に経済成長しており、デリー近郊のグルガオンは外資系企業が集積している(当方が勤務しているグループ企業もここにある)。しかし、一方で路上生活者も多いし、過去の因習も多い。しがらみにまみれながら、近代化の過渡期を迎えつつあるインドにおいて、手段を択ばない出世主義を体現する主人公を軸とした本作は、いまだからこそ観るべき価値があると思う。時代の変化や社会の変容、それらがもたらす人間関係・価値観へのインパクトなどに興味がある私としてはかなり好きな作品だった。なお、パッケージで主人公の頭に描かれる王冠はバスキアっぽいが、これは自由の国アメリカ・ニューヨークへのオマージュだろうか。実際に作品ではニューヨークへの言及が多い。自由の風吹くアメリカに憧れる大国インドの成長はまだ始まったばかりだ。
★ 4.0 / 5.0
