第49回衆院選は1日、全議席が確定した。自民党は追加公認を含め261議席を獲得し、国会の安定運営に必要な絶対安定多数を単独で確保した。岸田文雄首相(自民党総裁)は続投する。立憲民主党は共産党との共闘が不発で議席を減らした。日本維新の会が41議席で第3党になった。(中略)自民は安定多数の244を上回り、絶対安定多数の261議席を得た。絶対安定多数は衆院で常任委員会の委員長を独占したうえで、各委員会で自民が過半数を確保できる議席数だ。-日経新聞

 

◆選挙についての所感

事前の世論調査だと、自民党に逆風で、立憲民主と共産党は野党共闘で健闘するかと思ったが、なんと立憲民主は14議席減らして100議席も割り込み96議席、共産党も2議席減の10議席である。まさに共倒れだった。首相指名のときに枝野への投票を要請され拒否した国民民主党は3議席伸ばして11議席。共産党と組むという毒饅頭を食べた結果、立憲民主党の支持層の穏健保守が離反してしまったようだ。

 

自民党も議席数を減らしたが、安定多数を確保したので、十分に勝利といっていいだろう。結果、減った分はどこにいったかというと、まさかの「日本維新の会」で、議席数は3倍以上の41議席。立憲民主党が共産党と組んだため、穏健保守層の票が維新に流れたようだ。大阪選挙区はまさかというほどに維新が強く、立憲民主党の副代表を務める辻元清美、立憲民主党代表代行元官房長官を歴任した平野博文が落選、自民党も副大臣経験者の自民党の佐藤ゆかり・左藤章・中山泰秀・原田憲治が次々と落選。コロナ対策で吉村知事などはテレビ露出も多く、また若くて期待感もあり、自民党の批判票と立憲民主党を離反した穏健保守の票が雪崩れ込んだとみられる。ただ正直、自民党の重鎮の高齢者の面々をみると、若手が活躍している党を応援したくなる心理は分かる。

 

あまりテレビでは報道されないが、維新の会は改憲派である(LINK)。政権与党と維新の会が組むと憲法改正派が2/3を超す。どこを改正するのかというのはかなり温度差があるが、憲法改正も現実味がある。とはいえ、岸田さんはそこまで改憲に熱心ではないので、あまり議論は進まないのではないかと思う。ただ中国・ロシアの艦隊が日本を一周するという威圧的な行動をとっており、いつまで平和ボケでいられるのかは分からないので、自衛隊の在り方などは早急に議論するべきだと思う。台湾有事も近い将来確実に起こりえる。対岸の火事を決め込むことはなかなか難しい。

 

◆なぜ議員は高齢になっても引退しないのか?

それにしても今回の選挙では大物政治家が次々と落選した。これは「政権交代」ではなく国民の声は「世代交代」だったということである。それにしても議員はなぜこんなに高齢者が多いのか不思議である。これは定年制がないことも要因であるが、議員は経済的に不安定ということも大きい。医師・弁護士・企業経営者・資産家などでもない限り、議員は落選・引退時の経済的なセーフティネットはほぼない(知人の会社に役員として置いてもらえる、政党の職員として置いてもらえるなどのケースもあるが)。そして退職金もなければ、議員年金も廃止されたので国民年金しかない。衆議院議員の場合は選挙は4年に1度とはいえ、解散もあるので実際は平均すると4年未満で選挙をやらなければならない。選挙費用も政党から支給されない限りは自腹なので結局、資金繰りに奔走することになる。

 

議員は在任中は潤沢にお金が支給されるが(給与以外に使途を報告する必要がない文書通信交通滞在費100万円、立法事務費65万円が毎月支給されるので、報酬は合計4000万を超す。夜の街に繰り出す輩が出てくるわけである。)、落選すれば貯蓄がない限り一気に困窮するので老後は生活保護というパターンも少なくないとは聞く。当選した議員ばかり注目されるが、落選議員のその後はなかなかシビアである。これに比べると若手時代は年収が低くても、退職金があって厚生年金に入れる公務員・大企業に入った方が生涯賃金の期待値は高いと考えられる。

 

国会議員は、年収4000万円(期末手当・文書通信交通滞在費・立法事務費含む)として、1期4年で1億6000万円が支給される。しかし、選挙費用は5000万とすると(政党によっては選挙費用はかなり出ているらしい。自民党は議員の数が多いので出ていない。)、差し引き1億1000万円に目減りする。出馬した人のうち当選するのは44%程度であり、得られる報酬にその当選確率をかけると、衆議院議員に一回当選して得られる報酬の期待値は4年間で4840万円(※1)となる。つまり、安定的にこれから4年間年収1210万円以上を稼げるのであれば、衆議院選挙に出る経済合理性は乏しい(かつ厚生年金に入れて退職金があれば尚更である)。

 

※1を単純に掛け算すると、公務員・大企業ビジネスパーソンの生涯賃金3億円を稼ぐには6期(24年間議員をする計算)当選する期待値と同じである。ただこれは単純化した計算だが、当選し続けるのが難しいし、衆議院の任期は解散総選挙もあるので4年未満で、議員は交友関係も手広いので、冠婚葬祭関連の出費も多い。これを踏まえると、議員専業だとすると、国会議員の報酬の期待値が、公務員・大企業ビジネスパーソンの生涯賃金と釣り合うのは7~8期を務めた場合と同程度だろう。もちろん、経済利得以上に、国会議員という名誉欲などの目に見えないベネフィットもあるのであくまで金勘定の上ではという話であるが。よく国会議員が高給取りと揶揄されるが、当選確率を無視した「生存バイアス」にゆがめられた話であると思う。国会議員の報酬だけをピックアップするのは、選挙のために投下した「サンクスコスト」なども無視している。


安定した雇用を捨てて議員になるのはかなり経済的に見るとリスクが大きい。一期だけ務めて返り咲かなかった議員は山のようにいる。結局、議員がそのポストにしがみつくのは経済合理的な行動であり、政治家志望が選挙費用を捻出できる資産家や、当選確率の高い世襲議員やら業界から支援を受けるられる人だらけなのは経済合理性からいうと当然である。

 

◆議員はなぜ不祥事が多い?

ちなみに、政治家の不祥事は多いが、普通の感覚だと公務員・大企業勤務が経済合理的なので、結構な”リスクテイカー”でないと選挙には出ない。リスクを低く見積もる心理傾向が不祥事を引き起こすのだろう。ちなみに、私の学生時代の知人・友人も選挙に出ていたが軒並み落選だった。奥さんや子供もいるのによく出るなと思う。リスク回避傾向の強い私からすると信じられない笑。なぜ議員の不祥事が多いかと言えば、選挙に出られるほどにリスクを取れる人は、ハイ・リスクの行動を取りがちではないかと思われる。