スウェーデン王立科学アカデミーは5日、2021年のノーベル物理学賞を日本出身で米国籍の真鍋淑郎・米プリンストン大学上席研究員(90)らに授与すると発表した。真鍋氏は1960年代、物理法則をもとに地球全体の気候をコンピューター上で再現して予測する数値モデルを開発した。大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が気候に与える影響を初めて明らかにした。国際社会の目を温暖化に向けさせ、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の発足などにつながった。-日経新聞

 

日本人の受賞者数は29人になったそうだ。ただ真鍋氏は米国籍であり、南部氏・中村氏に続いて3人目の日本出身の米国籍の研究者の受賞となる。なお、文学賞を受賞したカズオ・イシグロも日本出身のイギリス人である。なお、日本国籍の受賞者数は25人である。国別では世界第7位であり、トップ15までみてもアジアでは唯一のランクである。なお、自然科学賞に限ると世界第5位になる。明治維新から近代科学を急速に受容し、猛烈な勢いで科学大国に上り詰めた。

 

しかし、この勢いはいつまで続くだろうか。現在だと「影響力が大きな論文の数」では、日本は過去最低10位に転落している(LINK)。国立大への運営交付金も減らされて、一部国立大では人事凍結したり予算カットに必死だそうだ。研究者の待遇も非常に悪いので、優秀層は博士課程など行かずに就職してしまう。ちなみに、京都大学大学院法学研究科教授の高山佳奈子氏は45歳時点で年収940万円だったと明かして話題になったことがある(LINK)。一般的には高い給与だが、大学院で修士・博士課程も修了し、さらに下積みを経て、日本でも有数の名門大の教授にしてはパッとしない。業種や勤務形態などが違うので容易に比較はできないが、外資系コンサルだと、マネージャー一歩手前の役職(二十代前半~三十代半ば)でも、700万~1000万であり、マネージャーなら確実に1000万は超す(一方で淘汰される人も多い)。最難関大から外資系企業に就職する人が多いのは経済的誘因が大きい。

 

よく低レベルな私立大(通称「Fラン」)増えて、国立大の予算を食ったというような見方をする人がいるが、私立大への助成金など微々たるもので、小規模なFラン大が増えたところで影響はほとんどない(私立大の運営費の9割は自費であり、予算の半分以上が税金頼みの国立大とは違うのである)。教育関連予算が圧迫されているのは、超高齢化社会になって社会保障費が増えたからだ。これは急速に人口大国になり経済発展した日本の副作用であり仕方がないが、これから研究費において米国はおろか、中国にも負けており、これからインドにも抜かれていく。

 

それにしても日本は文系が多過ぎる。韓国やドイツでは学生の過半数が理工系の専門教育を受けており、英国は4割、米国は3割が理工系であるが、日本は2割だけである。高度成長期の人口増加期に文科省が国立大の定員を増やさなかったため、大学教育の需要は私立大が吸収したが、私立大は予算のかかる理系学部ではなく文系学部を増設したので、文系だらけになってしまったというわけである(日本の文化・文芸水準が高く維持されているのは文系が多いからかもしれないが)。なぜ国立大が定員を増やさなかったのかは謎である。エリート主義が強かったからなのか、学生運動が激しかったこともあって大学生の数自体を増やしたくなかったのかよくわからない。知っている人がいたら教えてほしい。

 

日本は大学受験が厳しかったので、入口は難しいが出口が簡単といわれたが、少子化でどんどん易化している。大学の単位取得は簡単なので、一部の上位クラスの大学を除くと、勉強しない大学生が乱造されているという構図である。一方で、海外だと入るのは簡単で出るのは難しいといわれるが、これは大陸ヨーロッパの事情を過度に一般化し過ぎである。中国・韓国は人口が多いので受験が熾烈であるし、アメリカも人口は増加傾向であるが名門大は定員が増えていないのでトップの私立大は超難関である。ちなみに、同僚はイギリスで大学卒だが、1年生の進級で3割が落第していたそうだ。

 

一方で、アメリカの事例をヨーロッパ・カナダ・オーストラリアにも当てはめる人がいるが、誤りである。カナダ・オーストラリアは人口規模は数千万人程度の中堅国だが、大学は3~7万人規模であり、別に入学自体はさほど難しくはない。ヨーロッパのほうも数万人規模が普通で入学試験すらなく、定員すらない学部もある。その代わりに進級が難しくドロップアウトが多い。「欧米」でも一枚岩ではないのだ。

 

日本は国公立大含めて数千人規模のミニマム大学が多過ぎる。経営面でみれば非効率的だし、学内の研究者同士の学術的交流も限定的になるし、設備面でも貧弱にならざるを得ない。ちなみに、ニューヨーク州立大は64キャンパスを有し、学生数は39万人であり(LINK)、カリフォルニア州立大は23キャンパスを有するが学生数は48万人である(LINK)。カナダの名門トロント大は学生数9万5000人LINK)、名門ブリティッシュコロンビア大は学生数6万6000人近い(LINK)、イギリスのロンドン大も学生数21万人規模である(LINK)。税金で運営されている以上、広く開かれた教育機関であるべきという発想である。

 

国立大は経営統合などを進めて経営の効率化を図り、研究予算を増やすのは当然としても、理系の予算比重を高める必要性があるだろう。日本はいまでも1憶を超える人口を誇り、経済力は世界3位であり、予算がないというのは嘘である。法科大学院やらの利権機関には税金をバラまいていたし、スーパーグローバル大学とかいう無意味な予算も組んでいたのだから。いまは理系や研究者を冷遇し過ぎであるが、このツケは数十年かけてじわじわとやってくる。