在宅勤務が続いているが、今住んでいるところは手狭ゆえ引っ越しを検討中である。オフィスが縮小されたため在宅勤務が恒常化する予定であるので、通勤は度外視して在宅の快適さや住みたい街を基準に選ぶことができる。本書は副題にオリンピック後とあるがあまりオリンピックの話はフォーカスしていない。本書の視座は、働き方改革により、より自由な働き方が実現することで、より街に根をおろして生活できるようになるため、通勤に便利だからとか駅近などの重要性は下がり、街自体の魅力が重要になるだろう点にある。コロナで在宅勤務が一般化し、交通利便性という点は重要性が下がり、本書の指摘する「住む」「働く」「暮らす」により構成される「街」の魅力が急速に高まっている。非常に論は分かりやすく、また東京の23区の居住環境案内としても良い。オリンピックという副題にとらわれずに引っ越し検討中の人や不動産に興味ある人には手に取ってほしい本である。
高度成長期は、夫が働きに出て妻は専業主婦の家庭が多く、より良い住環境を求めて郊外の一戸建てが人気だった。しかし、最近では共働き世帯が増加したため、より交通利便性が高い都心エリアが人気になっている。また、共働き夫婦の場合は世帯年収が高いので、例えば、一人の稼ぎでは手が届かない湾岸エリアのタワマンなども候補に入ってくる。ただ著者はタワマンにはやや懐疑的で、工場跡地のように土壌がよくない場合や、住民同士の交流はなく街としての体をなしていない場合がほとんどで、また修繕費も高額になり今度の維持管理に不安があり、おまけに湾岸エリアは塩害も深刻で、高層階は強風で窓も開けられないし洗濯物も干せないなど制約が多いという。不動産投資としての購入や賃貸で一時的に住むのは良いかもしれないという。
実際、当方もタワマンに憧れるが、(買えないひがみもありつつも)実際のところいろいろ話を聞くと住みやすくはなさそうである。まず、通勤時間帯はエレベーターが行列で下に降りるのに十数分かかり、またタワマン1棟できるだけでも急激に人口が増加するが、駅や周辺施設のキャパをオーバーして混雑が酷いという。湾岸エリアは小学校不足が深刻だそうだ。武蔵小杉の場合は駅に行列ができて改札通るのに通勤時間帯は数十分待ちだったそうだ。当方も、通勤していた時は大手町のビルの高層階だったが、エレベーターでの移動はたしかにかなり面倒だった。あのストレスが日々の生活でも生じるのは辛いだろう。「高層階病」に悩まされる人も結構いるらしい。
それにしても昔はどこの沿線かにこだわる人が多かったそうだが、今は以前よりもどこの沿線かは重視されない。昔にもてはやされた沿線は混雑が酷く、また沿線住民が一気に高齢化してきており、また都心回帰で人気の沿線でも郊外エリアは人気が落ち活力が失われているという。また、相互乗り入れが増えたので、ハイソなイメージの東横線も副都心線に接続され、池袋を通過して埼玉の和光市までつながっている。利便性は向上したが、東横線の持っていたステータス性は薄れてしまった。沿線にこだわるメリットが減退しているのだ。また、これによっていままでは不便だった駅も利便性が上がっている。
人気だった街が世代交代せずに一気に高齢化して空き家だらけになることはしばしばある。典型なのが田園調布で、高さ制限でマンションなども建設できず、商業施設もないために不便であり、また土地が広過ぎて買い手もつかないという。世田谷区や大田区などではすでに空き家がかなり多いが、これから相続問題が深刻化するだろうといわれている。新規参入者はおらず人が出ていく一方でゴーストタウンまっしぐらだそうだ。一方で、大学の誘致に成功した中野や北千住は交通利便性も相まって人気の街に様変わりした。住民が新陳代謝しない街は廃れていく運命なのだ。
コロナがまだ終息を見せていないが、これから変異種が流行すれば来年ぐらいまで自粛が続くかもしれない。在宅勤務に慣れてしまうと、また満員電車で通勤するライフスタイルには戻れまい。在宅勤務が一般化することで、住む場所の自由度は格段に高まる。当方もいろいろな面から引っ越し先を検討中だが、本書は交通利便性の重要性は落ちているというが、しかし、都心部は娯楽が多いので都心エリアへのアクセスの良さは、通勤をおいておいても確保しておきたいところ。ただ交通利便性が良くて、在宅勤務のためにある程度の広さも必要で、さらに住環境が良いとなると賃料の問題が出てくる・・・。いやはや、住む場所選びは大変だ。